トライツコンサルティング株式会社

B2B営業は「課題解決型営業」から「顧客中心営業(Customer-Centric Sales)」へ

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パラダイムシフトという言葉があります。従来は当たり前で誰も疑問を感じていなかった考え方がひっくり返り、新しい考え方に切り替わること。天動説に対する地動説や、旧約聖書の天地創造に対するダーウィンの進化論などが有名な例ですね。

このパラダイムシフトは上のような自然科学の世界だけで起こっている訳ではありません。以前は音楽CDや映画のDVDなどを所有することが当たり前だったのに、それがいつの間にかダウンロード再生するものになり、さらには定額でストリーミング再生するものになったというのも、多くの人が体験している最近のパラダイムシフトではないでしょうか。

そんなパラダイムシフトはB2B営業の世界でも起こっています。今回のトライツブログでは、顧客の購買活動の変化によって引き起こされている大転換「顧客中心営業」にスポットライトを当てたいと思います。

以前から「課題解決型営業」が重要であると言われ、そのためのツール整備や研修などが行われてきましたが、「顧客中心営業」はそれとどう違うのでしょうか。顧客の変化に合わせて、自社の営業のやり方やそのマネジメントの仕方をアップデートしたいとお考えの方はぜひお読みください。

現在のB2Bの購買活動に起きている変化①「Web活用」

「顧客中心営業」の説明に入る前に、改めて現在のB2Bの購買活動で起きている変化について、おさらいをしておきましょう。

Webが浸透する以前は、顧客はすでに知っている営業担当者や、新規の場合は候補企業の問い合わせ窓口に電話をするなどして、担当者を呼ぶことから購買活動がスタートしていました。営業担当者と話をしながら時にはサンプルを取り寄せたりデモを見たりして自社に合った商品・サービスを絞り込んでいき、複数の候補について見積を出してもらう。このように、以前のB2B購買は営業担当者と一緒になって進めていく活動だったのです。

しかし、Webが浸透し皆がそれを活用するようになって、購買活動は一変しました。Webブラウザを開いて自社の課題や候補となる企業名や商品名などをGoogle検索し、企業のWebページで商品・サービスの仕様や導入事例などを確認します。そして、比較サイトなどがあればそれを見たり、SNSでその企業や商品・サービスについてのクチコミを調べ、動画サイトで動画を見るなどして、候補をある程度絞り込んだ状態でようやく営業担当者に連絡を入れます。Webが活用されるようになったことで、B2B購買は顧客が主体となって進めるものになったのです。

現在のB2Bの購買活動に起きている変化②「組織化」

さらに、B2Bの購買活動では、組織化という変化も起きています。以前は決裁権限を持つキーパーソンの鶴の一声で決まるということも多く、キーパーソン攻略やトップ攻略などという言葉が頻繁に使われていました。しかし、現在では購買活動がシステマチックになり、担当者が調査検討し、それを上司がチェック判断して、さらに上の上司や部長会・役員会などの会議に付議して最終決裁するというように、組織として購買プロセスを進めているところが増えています。

この組織化という変化のため、購買活動は以前よりも複雑なものになっています。検討開始から最終決裁に至るまでの期間が長くなり、関係する部署や人の数も増えています。そして、この傾向はコロナ禍によってさらに加速しているようです。米国のTrustRadius社の調査レポート「The 2021 B2B Buying Disconnect」によると、コロナ以前と比べて購買に要する期間はさらに長く、商品・サービスの調査や投資対効果の精査にかける時間もさらに長く、検討時に使用する情報源の数はさらに多くなっています。

「顧客中心営業」時代の到来とそこで求められる「コンサルティング営業」

このように、「Web活用」という変化によって購買活動の主導権は顧客へと移るようになり、「組織化」という変化によって購買活動は複雑なプロセスへと変化しています。この新しいB2Bの購買活動に対応する、新しいB2B営業についての呼び名が定まっていなかったのですが、最近になって米国の複数の調査レポートで「Customer-Centric Sales」(顧客中心営業)という名称が使われるようになっており、定着の兆しが見えつつあります。現在は「顧客中心営業」の時代だというのです。

これは私たちに馴染みのある「課題解決型営業」とは何が違うのでしょうか?

「課題解決型営業」は、営業担当者が顧客の課題を掴み、その解決策を考えて提案するというもので、そのプロセスをリードする主体者はあくまでも営業担当者です。それに対し「顧客中心営業」では、Webを活用して情報を収集したり、組織を動かして購買プロセスを推進するのは顧客自身であり、営業担当者は介助者としての役割を果たすというところが大きな違いのようです。

ここで、営業が顧客の介助者?具体的に何をするの??そう思われた方は少なくないと思います。

そのヒントを探してみたところ、多くのレポートで「コンサルタント/コンサルティング」という言葉が使われていることに気付きました。それはどのような役割なのか、見ていきましょう。

顧客中心営業に取り組むには、コンサルタントとしての役割が求められています。しっかり時間をかけて顧客のニーズと課題を理解し、それらに対する適切な解決策を見つけるのです。顧客それぞれに固有の課題や問題を調査して、最適な解決策を提示する営業担当者が売上を獲得するのです。
―Jeff Fordham, Endeavor Business Media, LLC.

購入プロセスにかかわる関係者はそれぞれ独自の評価基準を持っています。そのため、互いの反対意見を乗り越えて合意を形成するためには、それらの関係者と協力してそれぞれのニーズをより深く理解し、反対意見を具体化し、意思決定のプロセスを通じてそれぞれの関係者の期待値を管理する必要があります。B2B購買を成功させるためには、購買の意思決定につながるコンサルティング営業が必要なのです。
―Gary Clark, Modern Distribution Management

コンサルティング営業は購買の実施後も継続します。多くの企業は導入サポートやユーザー向け研修、オンライン/オフラインでのサポートをカスタマーサクセス部門で実施していますが、営業担当者がこれらの活動に関与し続けて顧客の目的達成をサポートすることが重要です。
―Gary Clark, Modern Distribution Management

これらの記事で表現されているコンサルティング営業の像はほぼ一致しています。顧客の組織の中に入り込んで各関係者のニーズや課題を深く理解して、個別に最適な解決策を提示して、最適な購買を支援し、購買後も顧客の目的達成のためにサポートするという、非常に高度な役割が営業担当者に求められるというのです。

「顧客中心営業」になり「コンサルティング営業」を実現するまでの3つのハードル

どうやら私たちはこれから「顧客中心営業」の時代に突入し、生身の営業担当者に求められる役割が「コンサルティング営業」だということは間違いないようです。ただ、従来の営業のあり方から顧客中心営業へと切り替え、コンサルティング営業を実現するのは簡単なことではありません。そこには3つの大きなハードルがあるからです。

1つ目のハードルは、従来の営業が主体であった頃の考え方やツールを、顧客中心営業へと転換させることです。典型的なのが、営業活動の進捗のマネジメントの考え方です。多くの企業では「課題ヒアリング」「提案書提示」「見積提示」など、営業担当者が主語となっている営業プロセスを物差しにして、プロセス管理をしたりSFAに入力させたりしていますが、これは「営業が〇〇をやったら△△という結果が出る」という営業主体の考え方に基づいています。それに対して顧客中心営業では、顧客が主語となる購買プロセスへと置き換える必要があります。

2つ目のハードルはコンサルティングと自社商品・サービスの購買を結びつけることです。コンサルティング営業と言えども「営業」なので、成果を出すためには商品・サービスを販売しなければなりません。これは「課題解決型営業」の頃からのハードルで、課題解決につながる商品・サービスがない、あったとしても価格やスペックが微妙に合わず購買につながらないといった問題がつきまとっていました。これは「顧客中心営業」となったあとも存在し、カスタマーサクセスが重要視されるようになると本当に課題解決につながる商品・サービスを提案しなければならなくなり、より高いハードルとなります。このハードルを越えるためには「商品・サービス開発のスピードアップ」「自前だけに拘らない商品・サービス調達」「他社と連携した課題解決」など、これまで以上に顧客の課題やニーズに合わせた商品・サービス開発・調達が必要になります。

そして3つ目のハードルは、個別対応が求められるコンサルティング営業を、システム活用によって効率化することです。これまでも課題解決営業で営業担当者は分厚いPowerPointの資料を作ったり、何回も面談を重ねたりと多くの工数を投入してきました。これに更にコンサルティング営業として個別対応を増やすとなれば、営業担当者の負担が増える一方です。

そこで、現場で発生する様々な顧客の課題を、別の担当者が再利用できるように集約しタグ付けする。現場で作成して有効だったツールを汎用化して、次からは効率的に使いまわせるようにするというようなことはこれまで以上にシステマチックに行う必要があります。さらにそこで出てきた顧客の課題やニーズを言語化して、Webマーケティング企画のインプット情報とするとか、それぞれの顧客の課題に近視眼的に1つ1つ対応するだけでなく、システムを使って再活用できるように効率化し、「組織として効率的にコンサルティング営業ができる」ように変えていかねばならないのです。

新しいパラダイムに適応する組織になるか、それとも

現在のB2B営業は、営業担当者が主体となって営業活動を推進するかつての営業から、顧客が主体となって購買活動を推進する「顧客中心営業」に切り替わる、まさにパラダイムシフトの時期を迎えています。3つのハードルを乗り越えて新しいパラダイムに適応する強い営業組織になるのか、古いパラダイムとともに少しずつ確実に衰退していく営業組織になってしまうのか、大きな分かれ道に今私たちは立っているのです。

トライツブログでは今回ご紹介した「顧客中心営業」や「コンサルティング営業」など、B2B営業・マーケティングのトレンドや時代を映すキーワードについて、これからも継続して調査・発信していきます。引き続きご期待ください。

参考:
Embracing Customer-Centric Sales」(Jeff Fordham, Endeavor Business Media, LLC., August 9, 2021)
Adopting a Customer-Centric Distribution Sales Strategy」(Gary Clark, Modern Distribution Management, August 6, 2021)

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