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「営業系の年収 じわりと上昇」営業は今後も安泰か?

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桃太郎、花咲かじいさん、おむすびころりん、笠地蔵。これらに限らず、「金銀財宝を手に入れて億万長者になりました。めでたしめでたし」で終わる昔話が日本にはたくさんあります。シンデレラや白雪姫など王子様と結婚する海外のおとぎ話も、愛する人と結婚できただけでなく、その相手が王子様だったわけですからお金という面でもハッピーエンド。「幸せはお金では買えない」という言葉もありますが、洋の東西を問わず昔からお金と幸せは密接に関連していたのでしょう。

昔話やおとぎ話の世界にはおらず、会社に所属して働いている私たちにとってもっとも身近なお金の話は「年収」です。今回のトライツブログでは営業職の年収と求められるスキルについて、国内外の求人トレンドをもとに考えてみたいと思います。世の中の営業職の求人がどうなっているのか、見ていきましょう。

日経新聞「営業系の年収 じわりと上昇」は朗報か?

2021年5月11日の日本経済新聞の朝刊に「営業系の年収 じわりと上昇」という記事がありましたが、ご覧になったでしょうか。冒頭の一部だけ引用します。

転職市場で営業系職種の年収がじわりと上昇している。新型コロナウイルス禍で即戦力の人材が求められるのに加え、リモートワークにも対応した新しい営業系の人材の需要も高まっている。

エン・ジャパンの求人サイト「エン転職」では、「営業系」の募集時年収が4月に前年同月比6%上昇した。コロナ禍で企業活動が鈍化した2020年春は前年を下回り、全職種平均よりも低下が目立ったが、新年度に向けた求人が動き始める12月からは全職種平均の伸びを上回っている。

記事ではこの要因として2つを想定しています。1つ目は、スキルの高い経験者を対象に即戦力の採用を目指しているので募集年収が高くなっているということ。そして2つ目の要因が文中で「リモートワークにも対応した新しい営業系の人材」と表現されている、カスタマーサクセスへの需要の急増です。

カスタマーサクセスとは、既存客に対して自社の商品・サービス利用を継続・拡大してもらうよう、使い方をサポートするなどして顧客満足度を高める仕事。Microsoft OfficeやSalesforce、Adobeなどのシステム分野から始まった定額課金(サブスクリプション)型のビジネスがほかの分野でも広がっており、その影響でカスタマーサクセス人材への需要が伸びて、提示される年収も高くなっているというのです。

カスタマーサクセスを「既存客をサポートして満足度を高め、利用を継続・拡大してもらう仕事」と表現すると、ご存じない方は「これまでの得意客向けの顧客対応と何が違うんだ?」と思われるかもしれませんので、もう少し詳しく解説します。

カスタマーサクセスの特徴は多くの担当顧客を効率的にフォローすること

海外のMAシステム開発・販売会社でまさにカスタマーサクセスの仕事をしている知人がいるのですが、その人の話を聞いていると、これまでの得意客向けの顧客対応とカスタマーサクセスとのわかりやすい差異として、一人当たりの担当社数と効率性があると私は思います。

その知人によると、カスタマーサクセスの一人当たり担当社数は、エンタープライズと呼ばれる大口顧客であれば10~50社。SMB(Small and Medium Business)と呼ばれる中堅顧客だと70~150社。それ以下の低単価の顧客であれば1,000社近くになるそうです。これまでの得意客向けの顧客対応であれば、業界によって数字の前後はありますが、顧客の大小が入り混じってせいぜい数十社、超が付く大口顧客であればチームで1社を担当しているという業界もあります。これと比べると、カスタマーサクセスの担当社数が圧倒的に多いことがお分かりでしょう。

このような多くの既存客を担当・フォローする上で欠かせないのが、デジタルツールの活用です。数多くの既存客と定期的に接点を取り、何らかの兆しが検知されたり、問い合わせが入ったらサポートの連絡を入れて個別に対応し、自社商品・サービスの活用方法を伝えて問題解決し、ビジネス拡大に向けた提案をする。この一連の動きを、デジタルツールを使って効率的に回しているのです。

海外の求人動向①カスタマーサクセス職の平均募集年俸

日本経済新聞の記事から、カスタマーサクセス人材への需要が伸びており提示される年収も高くなっている、という国内の動きをご紹介しましたが、同様の動きは海外でも起こっています。

米国の求人情報サイトの一つにPayScaleというものがあります。それぞれの求人の賃金情報などを公開し、業界や職種ごとに平均賃金や求められるスキルの分布などを見やすく紹介してくれており、さらに企業向けには従業員の賃金管理システムを開発・提供しています。このPayScale社の求人情報を見ると、B2B営業職についてのトレンド、特にカスタマーサクセスという仕事への需要とそれに求められているスキルがより詳しく見えてきます。

B2B営業の代表的な職種として、これまで見てきたカスタマーサクセス、顧客を直接訪問するなどして営業活動をおこなうアウトサイドセールス、電話やメールなどを通じて営業活動をおこなうインサイドセールスの3つがあります。この3つの職種の平均募集年収(年俸)は以下のようになっています。

残念ながら「担当者」「スタッフ」レベルではデータがそろっていないのですが、マネージャ職を見ればカスタマーサクセスの年収が頭一つ飛び出ているのがお分かりだと思います。アウトサイドセールスやインサイドセールスよりも、カスタマーサクセスに対して企業の需要が強く、より高い年収を提示して求人を出しているのです。

海外の求人動向②カスタマーサクセス職に求められるスキル

カスタマーサクセスの年収が高いのは、ただ人気の職種だからだというだけではありません。PayScaleではそれぞれの職種ごとに、多くの企業が求めているスキルを集計し一覧表にしてくれているのですが、カスタマーサクセスは求められるスキルの数が多く、多岐にわたっています。こちらも、データがそろっているマネージャ職のスキル数で比較します。

訪問を中心とするアウトサイドセールスに必要なスキル数が少なく、電話やメール、MAツールなどの様々なツールを使って顧客とコミュニケーションを取る必要があるインサイドセールスでは必要スキル数が多くなるのは理解できるのですが、カスタマーサクセスになるとさらにスキル数が増えていきます。以下が、カスタマーサクセスのマネージャ職に求められる具体的なスキルです。グレー文字のスキルはアウトサイドセールスまたはインサイドセールスと重複しているスキル、黒文字のスキルはカスタマーサクセスのみに求められる特別なスキルです。

見ていただけると、スキルがただ多いだけでなく多分野に広がっていることがお分かりになると思います。「Sales」や「Sales Management」といった営業一般のスキルはもちろん、「Digital Marketing」「Social Media Marketing」などのマーケティングスキル、「Problem Solving」や「IT Consulting」などのコンサルティングスキル、「Enterprise Solutions」「SaaS」「IT Support」などのITスキル、データベースを操作するときに使う「SQL」言語や「Technical Analysis」などの分析スキルなど、本当に多岐にわたっています。もちろんすべてをカバーしている人はほとんどいないのでしょうが、営業マネージャとしての採用面接の場で「SQLの読み書きはできますか?」と聞かれると思うとびっくりしますね。

ここまでご紹介した年俸の比較表と、カスタマーサクセスのマネージャ職に求めらているスキル一覧表。多くの顧客をフォローし、さらに個別の困りごとや課題にも対応しながら成果を出し続けることを求められるカスタマーサクセスという仕事の価値と、その難しさがよく分かるデータだったのではないでしょうか。

カスタマーサクセスへの需要増を参考に自らの市場価値を高めよう

このようにカスタマーサクセスという仕事を掘り下げて見れば見るほど、冒頭でご紹介した日本経済新聞の記事「営業系の年収 じわりと上昇」が「コロナ禍でも営業職は求人が好調で安泰だ」というのんきなものでは決してないことがわかります。むしろ、サブスクリプションという新しいビジネスモデルの拡大と、コロナ禍による営業のデジタル化の加速によって、これまでになかった難易度の高い営業職が求められるようになっている、と認識し直す必要があると私は思うのです。

Webの普及によって、さらにコロナ禍によって営業・購買のデジタル化は加速しています。そのため、カスタマーサクセスという新しい営業職は日本でも今後定着・普及していくことでしょう。そして、そのようなサービスを体験する顧客が増えていけば、カスタマーサクセスという部門や担当者を公式に設置していない営業組織であっても、コンサルティングやIT、分析などの様々なスキルを使って既存顧客を効率的にサポートし、利用の継続・拡大を狙う「カスタマーサクセス的な業務」が求められるようになるものと思われます。現在B2Bの営業職に就いている私たちにとって、そのような業務にも対応できるように幅広いスキルを身に着け、顧客および自社内に対する自らの価値を高めることが、今後の年収を長期的に上げるために必要なのです。

参考:「営業系の年収 じわりと上昇」(日本経済新聞、2021年5月11日朝刊)

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