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「営業担当者が継続的に顧客を訪問できずに困っている」「課題を聞いてくることはできるし、それに対する回答も持って行ける。でもその次。3度目が続かない」。
このような悩みを、営業マネージャーとの面談時によくお聞きします。新規顧客開拓で初めて会う顧客に対してだけではなく、既存顧客でも同様に継続訪問に苦労しているというのです。業種業態、営業スタイルに関わらず、さまざまな企業で「3度目が続かない」と同じことをお聞きするので、トライツではこれを「営業訪問3度目の壁」と呼んでいます。
今回のトライツブログでは、この「3度目の壁」を壊すための営業コミュニケーションの工夫について事例を交えてご紹介します。
顧客とのコミュニケーションの理想像
食品メーカーX社の本社会議室。X社の商品企画部の課長と食品素材メーカーA社の営業担当者が、二人並んで会議室の長机の前に立って何やら話をしています。
課長「団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題と言うのは本当に深刻だと思っている。それに向けて、シニア層を支援するような新商品を増やしていきたいな」
営業「その新商品のコンセプトは決まっているのですか?」
課長「いや、最近同じような商品が多いから、新しいコンセプトって難しくてね」
営業「それなら、ちょっと新商品のコンセプト考えてみるので、見てもらえますか?ウチの新素材が役に立つかもしれないので」
課長「それはありがたい。ラフなものでいいから、考えてもらえると助かるよ」
営業「簡単なものでよければ、今週末にお見せしますね」
二人はX社の商品戦略や商品開発のロードマップを机の上一面に広げたフリップチャートに書き込んでいます。2025年問題に向けて実現したいゴールを描き、ゴールに至るまでのステップや主要なマイルストーンが書き込まれており、それらの周りにはX社の課題や大事にしたいポイントがびっしり。
こうして見ていると二人はまるで長年一緒に仕事をしてきた上司と腹心の部下。発注する側と仕事をもらう側という垣根を越えて、一緒にX社の課題に取り組む、理想的なコミュニケーションを実現できています。
さて、どうしてこのようなことができるのでしょうか?
3回目の訪問ができないのにどうやって信頼関係構築?という矛盾
A社の営業部隊は、1年前まで「営業訪問3度目の壁」に苦労していました。
A社は歴史も実績もある企業なので、会いたいとお願いすれば多くの顧客は面談の機会を作ってくれます。訪問時には自社商品のPRをして顧客の要望や困りごとをヒアリングしており、それに対して提案を練ってきちんとプレゼンも行っていました。
しかし、そう簡単に提案が通るわけではなく、立て続けに二の矢三の矢を放つきっかけも掴めず2回で終わってしまうという典型的な「3回目の壁」に突き当たっていたのです。
それに対して、営業幹部やマネージャーの考えは「信頼関係が作れないことが問題」でした。信頼関係を作らずにいきなり提案してしまうので、相手に判断されるだけで次が続かないという見方です。
「ではどうすればいいですか?」と尋ねると、「とにかく何回も会うこと」とか「こちらから諦めずに仮説をいろいろぶつけていくこと」と返ってきました。確かにその通りだと思いますが、仮説の一発目が不発に終わり、「3度目の壁」を越えられない現状への具体的な解決策としては不十分でした。
成功事例に学んだ「提案しない」コミュニケーション
ただA社の中には「3度目の壁」を突破した事例がありました。その中で、A社が事業パートナーとなって顧客の新商品開発からビジネス展開の支援まで、長年支援しているY社の昔の担当者にインタビューをしたところ、興味深い話を聞くことができたのです。
その内容とは、
- Y社がやろうとしていることや課題を聞かせてもらったが、すぐに解決できないような話だったので、一緒に解決策を考えることにした
- A社で考えられる解決策のアイデアを持って何度か訪問していたら、結果的にY社の事業計画のようなものを作ることになった
- その事業計画を実現するための方法として、「A社の商品と知恵が欲しい」という話になって、今のパートナー関係ができている
- 今考えたら、きちんと提案もしていないし、訪問回数のことなんて考えもしなかった
- 事業計画を実現するための打合せなので、訪問するのが当たり前になっていた
それを受けてA社が出した結論は「提案のためのヒアリングはやめよう」「すぐに提案に飛びつくのはやめよう」ということでした。
それまでのコミュニケーションは、要望や困りごとを聞いたらすぐに自社商品を絡めた提案を持って行っていました。それをスッパリ止め、顧客のやりたいことを聞き出して具体化することに集中しよう、と営業スタンスを大きく転換することにしたのです。
営業コミュニケーションの工夫「一緒に作るロードマップ」
具体的には、顧客が目指す商品開発やビジネス展開のゴールを実現するまでのロードマップを顧客と一緒に整理する、というセッションを営業活動の一環として実施するようにしました。
多くの取引先を持つ大手企業でも、このようなロードマップを一緒に作ってくれる取引先はほとんどありませんし、刻々と変化していくロードマップのメンテナンスもしてくれません。「これは助かる」とセッションに取り組んでくれる顧客が増えていき、このセッションは今やA社の営業部隊の得意技になっています。
ロードマップを作ることで「ロードマップを実現するための打合せ」という明確な営業訪問の目的ができ、「3度目の壁」などなかったように継続的に顧客とコミュニケーションをとることができています。そして、結果として顧客から「ここを助けてくれないか?」と言われることで新たな案件を発掘することにつながっているのです。
先ほどの会議室に目を戻すと、X社の課長が自ら赤ペンを持って何か記号を書き込みながら営業に話しかけています。
「これはうちでやれそうだな」
「これは今までにやったことないから手伝ってほしいんだけど、こういうのやれる?」
ロードマップの中にある「今後のタスクリスト」というエリアに書き出されている項目を見ながら、X社が自分たちでできそうなものには丸印を、社外の協力が欲しいものには三角印を書き込んでいます。営業担当者はロードマップ作りに一緒に取り組むことで、現在相談されている案件以外にも案件の「タネ」を見つけられましたし、何より顧客の商品開発ロードマップという大事な情報を手に入れることができました。
課長は机の上一面に広がっているロードマップを眺めながら営業担当者に語りかけます。
「こうやって整理してくれると、頭の整理にもなるから助かるよ」
「部内で共有したいから、清書して送ってもらえたら嬉しいのだけど」
どうやらA社の営業担当者はこのセッションによって、顧客のキーマンから期待される関係になることができたようです。
「一緒に作る」体験は顧客との距離も縮める
ご紹介したA社の営業部隊は、「顧客とロードマップを作る」というセッションを商談の中に組み込むという工夫を行い、訪問目的を明確にすることで「3度目の壁」を乗り越えました。
このロードマップ作りにはもう一つの効果があります。「一緒に作る」という体験を通して、顧客と営業担当者との間で一体感を感じられるようになり、距離を縮めることができるのです。
営業が顧客をなかなか訪問しようとしない背景には、「売り込む営業」対「判断する顧客」という距離感への苦手意識が少なからずあります。そのため「理由やお土産がないと訪問できない」「次に訪問する際のネタがない」「訪問しても時間が持たない」と顧客から足が遠のいてしまうのです。
その距離を縮める方法の1つが「顧客と一緒に何かを作る」というもの。一緒に作る体験を共有することで、顧客の懐に入りやすくなり、一気に訪問しやすい関係に変えることができるのです。
皆さんの営業組織に「3度目の壁」を感じている営業担当者がいるようなら、一度「自社の営業活動の中で、顧客と一緒に何か作れるものはないだろうか」と考えてみてはいかがでしょうか。
トライツコンサルティングは、この「3度目の壁」に代表されるような営業コミュニケーションにおける課題解決にも現場支援という形で取り組んでいます。「営業コミュニケーションの質を高めたい」「顧客に価値を与えられる営業活動に変えたい」「営業の生産性を高めたい」とお考えの方はぜひご相談ください。