トライツコンサルティング株式会社

データドリブンで人材育成を考える「営業スキルモデル」とは

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B2Bの営業担当者に求められるスキルは年々変化しています。少し前までは、顧客の課題解決を通じて自社の商品・サービスを導入・活用してもらう「課題解決型営業」がトレンドとなっていて、顧客の課題を把握するスキルや解決策を立案するスキルなどに焦点を当てた研修が多く開発・提供されていました。そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)が日本全体の課題となりつつある最近では、デジタルツールを使いこなして効率的な営業活動を企画・実践する「営業DX人材」が話題になっており、デジタルツールを活用するスキルやデータをもとにアイデアを考えるスキルが求められるようになっています。

このように、求められるスキルの水準が今までよりも高くなったり、求められるスキルそのものが変化したりしている状況では、場当たり的な単発の研修や現場任せのOJTだけでは人は育ちません。大変だと思われるかもしれませんが、体系的な人材育成のしくみを整えることが不可欠なのです。

そこで今回のトライツブログでは、体系的な営業人材育成のベースとなる「営業育成ロードマップ」と、それを基にした「営業スキルモデル」の作り方と活用方法について、ご紹介します。営業人材の育成を考えている方や、営業のスキルアップのためにどこから手を付ければ良いかお悩みの方にとって、参考になる内容ですのでぜひお読みください。

営業人材育成のベースとなる「営業育成ロードマップ」とは

まず、営業人材を育成する際の指標であり土台である、「営業育成ロードマップ」についてご紹介します。これは、自社として育成したい営業人材に必要なスキルとしてどのようなものがあるのか、それぞれのスキルをどのレベルで身に付ければ良いのか、を体系的に整理したものです。どのようなものか、下のイメージ例をご覧ください。

縦軸の行に①から始まるスキル項目を設定し、それぞれのスキル項目のレベルを横軸の列A~Eで定義する、というのが基本的な構造です。上の表には例として、顧客の購買プロセスを理解してそれを推進する「顧客の購買支援力」のレベルを定義しています。

表をご覧になって「人事評価で使っている表と何が違うの?」と思われる方も多いと思いますが、ここに営業育成ロードマップのポイントがあります。それは、このロードマップはあくまでも営業育成のためのものであり、人事評価には使わない、ということです。営業部門のみを対象とし、評価・考課には使わないことで導入しやすくなり、現場に応じたカスタマイズがしやすくなるというメリットがあるのです。

この営業育成ロードマップの基本的な使い方は、半年~1年に1回程度の頻度での定点評価とそれを基に育成面接を行う、というものです。営業担当者各人が現在のスキルレベルを自己評価し、来期に目指すレベルを設定する。それを見ながらマネージャーが客観的に現在のレベルを評価した上で、現在のスキル課題と今後のスキルアップに向けた方策について育成面接で会話し、現在のスキルを最終確定する、というのが基本的な流れです。

営業育成ロードマップは、このようにマネージャーによる部下指導のためのツールとしても役立つのですが、回答者数が100件を超えるとその回答データを使った分析ができるようになり、データに基づく育成施策の企画立案ができます。この分析手法の中で、今回ご紹介するのが「営業スキルモデル」と我々が呼んでいるものです。

データに基づいた育成施策の立案を可能にする「営業スキルモデル」とは

「営業スキルモデル」とは、営業育成ロードマップで設定したスキル同士の関連性を分析し、関連性(相関関係)が強いスキル同士を線で結んだ図です。相関関係が強い、つまり連動してレベルアップしやすいスキルの組合せが見つかれば、単独のスキルだけで研修を行うよりも、それらのスキルを組み合わせた研修を行う方が良いということが分かります。左下の10のスキルに対して、関連性の強いスキルを線でつないだのが右下の営業スキルモデルのイメージ図です。この図を使ってモデルの見方を確認していきましょう。

スキル同士の関連性・組合せのパターンは、「プロセス型」「ハブ&スポーク型」「独立型」の3つに分かれます。これらのパターンをスキルモデルの中から見つけることで、効果的な育成施策の立案ができるようになるのです。それでは上のスキルモデルの中に含まれている3つのパターンについて、見ていきましょう。

「プロセス型」は、課題の把握→解決策の立案→顧客への提案のプレゼンテーション、のようにスキルがプロセスによってつながっているパターンです。この場合、「⑤提案伝達力」が低いからといって、ただプレゼンテーションの仕方だけを強化してもうまくいかないことが往々にしてあります。プレゼンテーションのスキルが低い理由として、解決策が顧客にフィットしていない、そもそもの課題をちゃんと把握できていない、などのように手前のスキルに問題があることが多いので、プロセスを意識した育成施策を考える必要があります。

次の「ハブ&スポーク型」は、いくつものスキルと線が結ばれているハブとなるスキルが存在しているパターンです。上の図では、4つのスキルとつながっている「②関係構築力」がハブとなっています。この場合は、ハブとなっている「②関係構築力」が育成施策のターゲットの有力候補となります。このスキルを向上することで、これにつながっているスキルも連動して向上していくことが見込めるからです。

3つめの「独立型」は読んで字のごとくで、独立したスキル群です。先ほどご紹介した営業スキルモデルのイメージ図では、①~⑥のスキルと⑦~⑩のスキルが独立しています。そのため、例えば①~⑥のスキルはA~Eのレベル別の施策とするが、⑦~⑩のスキルは一律の施策とするというように、この2つのスキル群を分けて育成施策を考えても大丈夫だ、ということになります。

このように、「営業育成ロードマップ」を実施しそのデータを分析することで、自社の営業の実態に適した営業施策を考えられるようになるのです。この「営業スキルモデル」という考え方はとても強力ですので、ぜひ参考にしてください。

営業スキルモデルの作り方

最後に、この営業スキルモデルの作り方について、簡単にご紹介します。Excelには「CORREL」や「PEARSON」という相関係数を計算する関数がありますが、これだけでは不十分です。というのも多くの場合、関数で計算できる普通の相関係数を使うと、ほぼすべてのスキルの間に強い見かけ上の相関関係が表れてしまうからです。

見かけ上の相関とは、2つの物事の間に強い相関関係が見られるものの、それはその背後にある共通の要因の相関を表したものに過ぎないというものです。この見かけ上の相関を説明する例としてよく使われるのが、「アイスクリームの売上高」と「水難事故の件数」のお話です。データを取るとこの2つの間には強い相関関係が見られますが、これは「冷たいものを食べてから水の中に入ると溺れる」ということではありません。この2つに共通して強い影響を与える「一日の最高気温」という要因が背後にあるので、アイスクリームの売上と水難事故件数の間に相関関係があるように見えてしまうのです。

これと同じようなことが営業スキル同士の相関関係の中にも見られます。営業スキル同士の間に見られる見かけ上の相関関係は、「年齢」や「営業職の経験年数」、「別のスキルのスコア」などの様々な要因と連動している結果だということが往々にしてあります。そのため、相関関係を調べる際は、これらの要因を取り除いた純粋な相関関係を求める必要があるのです。この純粋な相関関係を調べるための分析手法が「偏相関係数」です。上で紹介したイメージ図では、偏相関係数が一定の値以上、かつ相関関係が統計的に有意だと判断されるスキルの間に線を結んでモデル化しています。

残念ながら、Excelには偏相関係数を求める関数や分析ツールは用意されていませんので、「SPSS」や「R」「エクセル統計」などの分析ツールを使うか、Excel上で計算式を入力する必要があります。偏相関係数の詳しい説明や計算式は、SSRI(社会情報サービス社)の「統計WEB」に分かりやすく解説されていますので、ご興味がある方はご覧ください。

ロードマップとスキルモデルを使って自社の営業人材育成の攻略法を見つけよう

顧客の課題解決をサポートするスキル、そのために社内を動かして取りまとめるスキル、顧客の購買プロセスを推進支援するスキル、デジタルツールを取り入れて営業活動を効率化するスキル、現在のB2B営業担当者には様々なスキルが求められており、私がお付き合いしている企業の多くでも営業人材育成の重要性が高まっているように感じています。

しかし同時に、今求められているスキルの多くは、まだまだ「こうすれば確実にスキルアップできる」という答え、具体的な育成施策や研修メニューが見つかっていません。つまり、現在直面している営業人材育成の攻略法はそれぞれの営業組織が自ら見つけなければならないのです。

その際に、必要な営業スキルと求めるレベルを明確にする「営業育成ロードマップ」と、その運用から得られるデータを基にした「営業スキルモデル」は、これから目指すべき方向性とそのために必要な施策を考えるのに有効なツールとなります。「営業DX人材を育成したい」「そのために体系的な人材育成のしくみを構築したい」とお考えの方は、ぜひご相談ください。

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