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突然ですが、皆さんは「MarTech」という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか。
MarTech(マーテック)とは、マーケティング活動を効率化する技術(テクノロジー)の総称で、MarketingとTechnologyを組み合わせて作られた造語です。このMarTechという言葉は2008年ごろから使われており、ほぼ同時期に始まったイベント「The MarTech Conference」は今年で12年目を迎え、今ではマーケティング業界でも有数の一大イベントになっています。

そして、ここ数年のうちに海外を中心に、MarTechならぬ「SalesTech(セールステック)」というキーワードも出てくるようになりました。そこで、今回のトライツブログは、注目のキーワードである「SalesTech」をご紹介し、それによって営業を改善するために大事なことについて考えたいと思います。

営業効率化システムを一望できる「SalesTech Landscape」

SalesTechとは、文字づらから予想できるように、営業活動を効率化するテクノロジーの総称です。

ここまでお読みの皆さんの中には「SalesTechなどと新しいような言い方をしているけど、結局はCRMやSFAとかの話なんじゃないの?」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このSalesTechは、よくある営業システムだけの話ではありません。その広がりがよく分かるのが、Nicolas De Kouchkovsky氏やNancy Nardin氏が作成している、SalesTech業界を一覧できるカオスマップです。ここではNicolas De Kouchkovsky氏作成の「SalesTech Landscape」をご紹介します。

大量のロゴに圧倒されてしまった方も多いのではないでしょうか。このカオスマップとは、機能ごとにそのサービスを提供するプレイヤーの企業ロゴや社名を一覧化したものです。

上の図は、先ほどの「SalesTech Landscape」のうち、右下の方にある「Data Visualization(データの視覚化)」という機能エリアを拡大したものです。GoogleにIBM、Microsoft、Oracle、Salesforceなど皆さんがご存知の企業もあれば、初めて見るような企業もあることでしょう。

SalesTechのベースとなる「営業の機能分解」

このカオスマップから分かるように、SalesTechは単なるSFAやCRMだけでなく、さまざまな機能エリアに広がっています。「SalesTech Landscape」ではSalesTechを「Engagement(顧客接点・信頼関係構築)」「Productivity & enablement(生産性向上)」「Sales intelligence(営業のスマート化)」「Pipeline & analytics(商談の管理・分析)」「People management(人材管理)」という5つの分類に分け、さらにそれを計37の機能エリアに分解しています。

ここでは37の機能エリアすべてを紹介すると大変なので、「顧客接点・信頼関係構築」の中に含まれる8つの機能エリアをさっと見ることにしましょう。

  • Online Meeting & Sharing:オンラインでの打合せ&資料共有用テクノロジー
  • Email Tools:Eメールに関連するテクノロジー
  • Sales Dialer:電話発信に関するテクノロジー
  • Lead Distribution & Call Management:見込み客とそれへの電話連絡を管理するテクノロジー
  • Proactive Engagement:トラブルやクレーム予防のためのテクノロジー
  • Signals & Social Engagement:SNSによる顧客との関係性管理のためのテクノロジー
  • Mobile & Field Sales Enablement:モバイルなど外出先での営業の効率化テクノロジー
  • Sales Activity Logging:営業活動の記録・管理に関するテクノロジー

このように一言で「顧客接点」といってもさまざまな機能に分解することができ、それぞれの機能に合わせたシステムが数多く開発・利用されているのです。

営業の問題は「分解して改善せよ」

今回このSalesTechの紹介を通じて皆さんにお伝えしたいのは、マップの中にあるいろんなテクノロジーを使ってみよう、ということではありません。私が今回お伝えしたいのは、渾然一体としたものとして捉えられがちなB2B営業を、機能分解して考える癖を身に付けよう、ということです。

上で見てきたカオスマップでは、営業という業務が細かく具体的に機能分解されていました。これは、職務記述書などで業務を明確に規定することに慣れている、実に欧米らしいものだといえるでしょう。

その一方で、日本の特にB2B営業では、営業の業務がしっかりと機能分解されている企業はごく少数。多くの企業では営業の仕事は明確に規定されておらず、顧客の要望や社内の状況などに合わせて臨機応変に何でも対応するものだとされています。もちろんこれはこれで柔軟に対応できるという良さがあります。しかし、業務が定型化されていないために、人によってやり方が異なったり、システム化ができずにいつまでも生産性が上がらなかったり、というデメリットも生じているのです。

古代ローマ帝国の時代から「分割して統治せよ」という言葉があります。大きくて複雑な問題に対しては、問題を細かく分けてから対応せよ、というこの教訓は政治だけでなく業務改善やシステム開発にも通用するもの。営業を改善しようとするなら、大きくて複雑なまま対応するのではなく、SalesTechのように営業という業務を機能分解して定型化/システム化するというアプローチが不可欠なのです。

賢いユーザーになってSalesTechのメリットを享受しよう

このSalesTechという言葉がどこまで日本のB2B市場に浸透するかはまだ分かりません。と言うのも、現在の日本ではこのSalesTechの取り上げられ方の多くが、「海外で流行っていますよ!」というものや、SFAやMAなどのシステムベンダーが「日本だと○○(そのベンダーが売りたいシステムのジャンル)に該当するものです」というように売り手に都合の良い紹介のされ方が多いのです。そのため、さまざまな営業の機能を効率化するテクノロジーが開発されて皆がそれを賢く使うというようにならず、SFAやMAなどの既存のシステムの呼び方が1つ増えただけ、ということにもなりかねないと私は感じています。

今年の4月に開催された「The MarTech Conference」での頻出キーワードは「Best of Breed(ベストオブブリード)」。これは、特定のベンダーでシステムを揃える「Suite(スイート)」とは真反対の考え方で、それぞれの機能での最適なベンダーを選んで組み合わせて使おうという「良いところどり」方式です。

システムベンダーの言葉に踊らされずに、自社の営業に必要な機能を明確化し、それぞれの機能ごとにシステム化などの改善策をじっくりと考える。そのような賢いユーザーに私たち自身が変わっていかないと、SalesTechで可能になる「ベストオブブリード」というメリットを手に入れることは難しいのではないかと思います。

トライツコンサルティングでも、これまで多くの企業のいろいろな営業を機能分解し、その生産性を向上させてきました。このような記事を見ると、米国での取り組みと通じるところが多いように感じます。具体的な事例などお聞きになりたい、あるいは自社の取り組みについて相談したいなどありましたら、下記よりお気軽にご連絡ください