前々回のトライツニュース「2019年B2B営業の新トレンド『バイヤーイネーブルメント』とは」でご紹介した、バイヤーイネーブルメントが早くも盛り上がりを見せています。バイヤーイネーブルメントとは「顧客が購買活動においてスムーズでより良い意思決定ができるように支援すること」。Gartner社が提唱し始めてからまだ半年足らずのキーワードですが、これを支持するマーケットデータや、実際にバイヤーイネーブルメント機能を謳うデジタルツールが出てき始めています。

そこで、今回のトライツニュースは早くも拡大期に入ろうとしている「バイヤーイネーブルメントの現在」についてご紹介したいと思います。

海外調査レポート①:営業マンに頼らない購買担当者と難化する購買活動

冒頭でも触れたように、バイヤーイネーブルメントとは「顧客が購買活動においてスムーズでより良い意思決定ができるように支援すること」。この背景には、B2Bの購買担当者がWebなどを駆使するようになり、営業担当者に頼らないような購買の仕方に大きくシフトチェンジしてきているため、その購買担当者がより良い購買体験ができるようにWeb等を通じて情報提供するようにしよう、というB2B営業のあり方そのものに関わる大きな意識変革があります。

この「購買の仕方のシフトチェンジ」に関して、世界有数の調査会社であるGartner社とForrester社が興味深いデータを最近続けて発表しましたので、概要を見ていきましょう。まずはForrester社からです。

68%のB2B購買担当者が、自分一人でオンラインで情報収集することを望んでいる(2015年から15%増加)

67%のB2B購買担当者が、第一の情報源として営業担当者とのコミュニケーションを選ばない

62%のB2B購買担当者が、デジタルコンテンツだけで解決策の評価基準や、仕入先リストを完成できると回答している

購買担当者が自立し、営業担当者に頼らずに購買活動を進めようとしていることがよくわかるデータになっています。続けて、Gartner社の調査データでは、購買活動の難しさが浮き彫りになっています。

77%のB2B購買担当者が「直近の購買活動が複雑/困難だった」と回答している

購買チームで購買タスクがやり直し/再検討となる割合
・課題の特定…76%
・解決策の探索…79%
・要求仕様の具体化…80%
・サプライヤーの選定…79%

2社のデータから
「購買担当者は営業担当者に頼らず、Web上のデジタルコンテンツを駆使して購買活動を進めようとしている」
「その一方で、購買活動の複雑さ/難しさを課題だと感じている」
ということがわかります。これを解決して顧客がより良い購買活動をできるよう、Web上で購買に役立つ情報提供をするバイヤーイネーブルメントが今求められるようになっている、という訳なのです。

海外調査レポート②:適切な情報提供で購買の量と質が高まる

では、本当にWeb上での情報提供で顧客の購買活動は上手くいくようになるのでしょうか。これについてもGartner社が興味深いデータを示しています。

サプライヤーから提供された情報が購買活動を進めるうえで役に立ったと感じた顧客では、購買が容易になったと感じる割合が2.8倍となり、後悔することなく大型の取引を実現できる割合が3.0倍になる。

このデータから、バイヤーイネーブルメントによって購買の量が増えるとともにその質(満足度)が高まっていることが分かります。つまり、顧客の購買担当者にとってバイヤーイネーブルメントは実際に価値のある取組だと言えるのです。

早くも登場!バイヤーイネーブルメント・サービス

このような盛り上がりを受けて、バイヤーイネーブルメント関連のサービスを提供する企業が早くも登場してきました。私が調査したところによると、現在バイヤーイネーブルメントを謳っているサービスとしては大きく3つのタイプがあるようです。

1つ目のタイプは、Webの機能・デザインを改良することで、顧客が必要な情報を見つけやすくしようというアプローチ。このアプローチをとるサービスはUX(ユーザーエクスペリエンス=顧客経験)というキーワードとバイヤーイネーブルメントを組み合わせてPRしています。

2つ目のタイプは、ABM(アカウントベースド・マーケティング)をベースにしたアプローチ。これはMAツールを使って、顧客企業ごとにそれぞれの購買活動の進捗状況を見ながら、購買に役立つであろう情報を個別に提供していこうというアプローチです。これまでABMツールを開発・提供してきた企業が、自社サービスの活用方法の1つとしてバイヤーイネーブルメントの流れに乗ろうとしているようです。

そして3つ目のタイプは、顧客の購買活動の効率化につながりそうな機能を持つサービスを組み合わせて提供しようというアプローチ。代表的なものは、ドキュメントのパーソナライズや顧客内で転送されていくのを追跡を可能にする「consensus」や、その動画バージョンの「Vidyard」。また、顧客とのスケジュール調整機能を持つ「Calendly」など。このタイプは混沌としていて、「これは本当にバイヤーイネーブルメントなのだろうか?」と思ってしまうものもバイヤーイネーブルメントを名乗っています。

現時点では、3つのうちどちらのタイプが優勢になるのかはわかりません。しかし、購買担当者がWeb上の情報頼みの購買活動に難しさや複雑さを感じている現在の状況でより買ってもらうには、営業側へのテコ入れだけでなく顧客側をテコ入れするバイヤーイネーブルメントそのものの取組はきっと不可欠なものとなってくることでしょう。

バイヤーイネーブルメントから分かる営業/購買のあり方の大変化

と、ここまでバイヤーイネーブルメントの盛り上がりについて、最新の調査データとデジタルツールという観点から見てきましたが、改めて私が感じたのは「もう営業という仕事は営業マンだけのものではない」という大きなトレンドの変化です。顧客が営業マンに頼らずにデジタルコンテンツを駆使してモノを買おうとしている現在では、顧客にモノを買ってもらうためには営業マンだけでなくWebページにも、そして「顧客」にも営業という仕事をしてもらわなければならない、ということです。

このようにトレンドが変化している現在のB2B営業で改革を進めようというとき、大事なのは今の営業ありきで考えてはいけないということです。これまでSFAや研修、営業ツールなど様々な営業施策が営業現場に導入されてきましたが、そのいずれもが「今いる営業マンに新しい情報を与えて、仕事の仕方を変える」というものでした。営業という仕事が営業マン主体のものだったときにはこれで良かったのですが、営業の仕事がWebや「顧客」にも広がってきている現在ではそれだけでは不十分であり、購買担当者がなかなかコンタクトを取ろうとしない営業マンにばかり情報を与えて、Webでは有意義な情報を公開しないというのでは、顧客の購買活動を支援するどころか阻害することになってしまうのです。

このようなお話を先日(2019年3月20日)開催した「営業デジタル改革」出版記念セミナーで当社の角川からお話ししたところ、かなりショッキングだったようで、何人もの方からアンケートで「今の営業ありきで営業改革に取り組もうとしてしまっていました」といったコメントをいただきました。

今いる営業マンに対して情報やツールを与えるだけの営業改革の時代はもうおしまい。
最近トレンドとなっているバイヤーイネーブルメントは、営業/購買のあり方の大きな変化を示すものだと考えられます。

参考:
SalesLoft’s Rainmaker Event Explores ‘Sales Revolution’ In B2B Buying Experiences」(DemandGen, Mar 15, 2019)
CSO Update : The new B2B buying journey and its implication for sales」(Gartner Inc., 2019)
The New B2B Buying Journey」(Gartner Inc., Mar 4, 2019)