マーケティング

日米のマーケティング表彰制度の違いから見えてくる課題

日米のマーケティング表彰制度の違いから見えてくる課題

皆さんは日本マーケティング大賞という賞をご存じでしょうか。公益社団法人 日本マーケティング協会が2009年にスタートした表彰制度で、企業・自治体・団体が行っているマーケティング活動のうち特に優れたものを選定しています。

ここ最近の大賞を振り返ってみると、「クラフトボス(サントリー食品インターナショナル株式会社、2017年)」、「47都道府県の一番搾り(キリンビール株式会社、2016年)」と、世間で話題になった商品が選出されています。ちなみに、2017年に大ブームとなり、我が家にも2冊ある「うんこ漢字ドリル(株式会社文響社)」は大賞ではなく奨励賞でした。2018年分については現在(2019年1月29日)エントリーを受け付けており、2019年5月末に大賞その他各賞が発表される予定です。

このようなマーケティング関連で表彰されるのは、日本国内ではB2Cの商品やサービスがメインですが、海外ではB2Bマーケティングの表彰制度というものもあります。そこで、今回のトライツニュースでは、海外と日本のB2Bマーケティングの表彰制度の違いから見える日本のB2Bマーケティングにおける課題について考えていきたいと思います。

調査記事:2018 B2Bイノベーター・アワード

B2Bマーケティングの調査・コンサルティングを行っているデマンド・ジェン社(Demand Gen Inc.)が年に1回開催しているB2Bイノベーター・アワードの2018年版(2018 B2B Innovator Award)が発表されました。これは、B2Bマーケティングにおいて先進的な取り組みを進め、かつ目覚ましい成果を上げている企業・団体を表彰するもので、2018年は「ターゲティング」「セールスの加速化」「データサイエンティスト」などの12部門で各2~3社のトップマーケッターが選出され計32名が表彰を受けています。

このB2Bイノベーター・アワードが他の表彰制度と決定的に異なるのは、「何に対して表彰するのか」という点です。日本国内のマーケティングの表彰制度は、冒頭で紹介した日本マーケティング大賞や日本BtoB広告賞などがありますが、いずれもヒットした商品/サービスやそのポスター広告などマーケティング活動のアウトプットに対して表彰するものとなっています。その一方でデマンド・ジェン社のB2Bイノベーター・アワードは、そういったアウトプットではなくB2Bマーケティング活動のしくみそのものが表彰の対象です。具体的にどのように表彰されているかを見ていただく方がイメージしてもらいやすいと思いますので、「B2B技術者部門」賞を受賞したデマンドベース社の記事を見ることにしましょう。

デマンドベース社のJohn Dering氏は、15年以上ものエンジニア経験を持つマーケッターです。彼のチームは、ABM(アカウントベースド・マーケティング)にAI技術を組み合わせてターゲット企業を特定することで、営業の効率向上と営業プロセス進捗率を改善しています。(中略)

この取組によって上げられた成果の例は以下のとおりです。
✓AIを活用してターゲット企業を選定することで、営業プロセスの進捗率が157%向上
✓企業情報の分析機能を使うことで、営業プロセスの進捗率が217%向上
✓ディスプレイ広告で、営業プロセスの進捗率が45%向上
✓検索エンジンマーケティング(SEM)にABM戦略を導入したことで、営業プロセスの進捗率が81%向上

このように、B2Bマーケティング活動をどのように改革したのか、そしてそれによってどれだけの成果を上げられたのかが受賞者ごとに記載されています。オリジナルの記事では、マーケティング改革にどのように取り組んだか、どのような成果を上げたのか、現在のB2Bマーケティング環境をどのように見ているかといった内容について詳しく述べられていますので、ご興味のある方はぜひお読みください。

米国のB2Bマーケティングで完全に定着しているABM

また、この記事でもう1か所私にとって印象的だったことがあります。それは、アメリカのB2BマーケティングでABM(アカウントベースド・マーケティング)が完全に定着していることです。

ここで、ABMについてご存じない方のために簡単にご紹介します。通常のマーケティングが市場という大海の中にいる個人の見込客を対象としているのに対し、ABMはアカウントベースドという言葉のとおり、ターゲット設定や見込客の育成状況のマネジメントをアカウント(企業)単位で行うものです。このABMは、どの企業が自社Webサイトのどのページを読んでいるかIPアドレスをもとに推定する、MAツールを使って個別にカスタマイズしたメールを送信する、過去の実績データをもとに現在の見込企業の育成状況と受注確率を自動で分析する、といった技術が現実のものとなってきたことにより10年ほど前から注目されています。

今回受賞した企業32社のうち、4割以上の13社がこのABMの活用が優れているとして表彰されており、まさにABMはB2Bマーケティングの要として米国では完全に定着していると断言できると思います。

なぜ日本ではAIがブームになって、ABMはブームにならないのか

このように米国では当たり前になっているABMですが、日本のB2B企業ではなかなか浸透していないのが実態です。セールスフォースをはじめとするSFA/CRMシステムを使いこなすことで手一杯。その一方で、AIやビッグデータといった流行りの技術には興味津々、という企業が多いようです。

この「ABMなどのマーケティングのしくみは浸透しないが、AIなどの新規技術には興味ある」というのが、日本のB2Bマーケティングの課題を如実に表しているように私は思うのです。

ここで言う「マーケティングのしくみ」はABMやMAなどのもの。例えばABMを導入するなら、「企業単位でターゲットを選定・育成する」という『目的』のために、「ターゲット顧客のスコアリング」や「メールなどのマーケティング施策をカスタマイズして実施する」「施策の効果を測定し改善する」という一連の『仕事の仕方』を取り入れます。このように『目的』と『仕事の仕方』を組み合わせたものが「マーケティングのしくみ」です。そのため、これを導入するには、自分たちは一体何をやりたいかの『目的』を明確にする必要がありますし、自分たちの『仕事の仕方』を変えていかなければなりません。

一方で「AIなどの新規技術」は、ビッグデータやデータサイエンスといったもの。マーケティング以外にも自動運転や遺伝子解析などさまざまな用途で使えますが、それ単体では何かができるというものではありません。RPGゲームでそれを見つけると強力なパワーを得て、あっという間に敵をやっつけることができるようになる最強アイテムのようなものだと考えるとわかりやすいと思います。

つまり、米国ではマーケティングと言うゲームに勝つためにABMという新しい手法を取り入れ、しくみを構築しようとしているのに比べて、日本ではマーケティングというゲームに勝つために最強アイテムを手に入れようとしているのです。ここに米国と日本の根本的な考え方の差が表れていると思われます。

B2Bマーケティングの遅れを取り戻すために

つい最近まで(2019年1月下旬)、日本経済新聞の朝刊に「BtoB企業とマーケティング」という題名で連載記事が掲載されていました。そこで「日本企業のBtoBマーケティングは米国に10~15年遅れている」という記述がありました。確かにABMはまだ日本では時期尚早で、15年後には多くの企業が当たり前に使いこなしているようになっているかもしれません。しかし、今回のトライツニュースで取り上げたような「マーケティングのしくみ」と「新規技術」のような考え方の根本的なところでの差が原因だとすると、その差はむしろ拡大してしまうのではないかとも思ってしまうのです。

参考:「2018 B2B Innovator Award」(Demand Gen Inc.)

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