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B2B営業の主流となりつつある「ソリューション(課題解決型)営業」。ただ商品を売り込むのではなく、顧客の課題をヒアリング/診断して、その解決策として自社商品を提案するというもので、すでに取り組んでいる企業も多くいらっしゃると思います。

ところが、つい最近「このソリューション営業はもうオシマイ」という内容の記事が米国版Forbesに掲載されました。タイトルは「Insight Selling Is The New Solution Selling」。ソリューション営業はどうしてもうオシマイなのか、次に来る「インサイト営業(Insight Selling)」とはどういうものなのか、見て行きましょう。

調査記事:ソリューション営業の終焉と購買担当者が感じているストレス

まず記事は冒頭でソリューション営業の終焉について解説しています。

B2Bの購買担当者はこれまでよりも十分に準備をし、学習した状態で商談に臨むようになっています。多くの場合、すでに求めるソリューションまで考えてきているので、何を求めているかをオープンクエスチョンで診断しようとするソリューション営業のアプローチは歓迎されません。

このように、B2Bの購買活動では、顧客が完全に主導権を握っており、営業がソリューション営業でリードしづらくなっていきています。そして、その状況はもう少し複雑になっていると記事は続けています。

しかしながら、B2Bの購買活動は加速度的に複雑になってきており、購買担当者はとてもストレスを感じています。
(中略)
購買プロセスが複雑になり、長期化しているだけでなく、購買担当者にとってなじみのない商品がどんどん出てきています。顧客はどのように購買の意思決定をしたら良いか不安に感じているのです。

Webなどを使って情報を手に入れやすくなり顧客が購買プロセスの主導権を握っているものの、購買の意思決定において不安やストレスを感じている。そこで求められるのが「インサイト営業」だと言うのです。

調査記事:顧客が営業に求めているのは専門家としてのインサイト

インサイト営業のカギは、顧客に対する深い理解を活用して購買担当者との間に信頼関係を確立することです。そのためには、従来のソリューション営業のようにいくつも質問をして顧客が考えていることを探るのではなく、営業担当者は専門家として顧客のことを深く理解した上で、価値ある情報(インサイト)を率先して提供しなければなりません。

顧客はお仕着せの営業トークを聞きたいわけではなく、学ぶことを熱望しています。LinkedIn社の調査によると、顧客は自身のビジネスについての斬新なインサイトを専門家から得られた場合、その営業担当者に発注する確率が5倍に上がります。「購買担当者は様々な情報にアクセスできるようになっています。しかし、彼らはその情報から意味を引き出したり、変換したり、正しい情報を集めていることを確かめることに必死になっているのです」と、Gartner社(訳注:米国有数の調査会社)のHank Barnes氏は述べています。

要するに、顧客はWebなどを使って簡単にかつ膨大な情報を手に入れられるようになっており、準備をしてから営業担当者と会うようになっている。そのため、ありきたりの営業トークしか話せなかったり、課題解決を押し付けてくるような営業担当者は不要で、今の時代に顧客が営業に求めているのは、自分たちのビジネスを深く理解した上での専門家としての価値ある情報(インサイト)だ、ということなのです。

インサイト営業の実現を阻む「専門家育成」の壁

皆さんはここまでお読みになって、どう思われたでしょうか。

確かに、Webで顧客でも手に入れられる情報しか話せない営業担当者に価値がない、という話はその通りだと思います。ですが、営業担当者が皆「専門家としての価値ある情報(インサイト)」を提供できるようにならないといけない、というのはあまりに理想的で非現実的なように思われるのです。

顧客に対してインサイトを提供できるように営業担当者を育成するには、日本の大企業でよく見られる数年ごとに部署をローテーションする仕組みでは不可能でしょう。本気で取り組もうとするなら、採用・育成の仕方から給与体系に至るまでの見直しや、専門家を集めた別組織の立ち上げや子会社化などが必要になってくるはずです。

それではどうしたらよいのか。打開策を考えるために、このインサイトについてもう少し考えを深めてみましょう。

インサイト営業の本質は「アハ体験」だ

インサイト営業で顧客に起こしたい変化、それは顧客が自分では知りえなかった情報をもとに考え方やアクションを再構成することです。「本当の課題は別のところにあった」「課題を分解することでどこから手を付けたら良いかが分かった」というような変化を起こすことで、顧客から「そうだったのか!」「面白い!」と思ってもらい信頼を得るということです。

この変化を別の言葉で置き換えるなら、一時期テレビのクイズ番組などで良く出てきた「アハ体験」だと言えるでしょう。ひらめき、または「何かに気づいたこと」を感じる体験のことで、「アハ」とは英語圏で何かを理解した時に発せられる「a-ha」からきているものです。

このように考えると、これからの営業担当者に必要なことは「商談を通じて顧客にアハ体験をしてもらうこと」であり、専門家としてのインサイトはそのための手段の一つにしか過ぎないと言えます。やみくもに専門的な話をしても、相手にアハ体験が起きなければ意味がありません。

逆に言えば、「アハ体験」が起こせて、顧客が「この人に相談したら良い方向が見えてきた」などと感じてもらうことができれば、専門的なインサイトは必要ないかもしれないのです。

アハ体験に有効な営業ツール

このようなことを考えながら、我々が過去に取り組んできた営業改革プロジェクトを振り返ってみました。そうすると、大きな成果が上がった営業ツールは、顧客に対して「アハ体験」を起こすことができていたことに気付きました。

顧客の業務レベルや設備の実態がどうなっているかを独自の切り口で評価できるようにしたレーダーチャートや、顧客の商品ラインナップの実態を4象限で分類できるようにしたマップなど、それを顧客に見せた段階から、「面白いね」という反応が得られます。そして、それらのツールを使うことで「こういう見方はしたことがなかった!」「ウチの会社はこうなっていたんだ!」「こんな営業されたことなかった」という声が得られ、顧客の中に何らかの「アハ体験」が起こっていることがわかります。そして、これらを起こすことができれば、かなりの確率で大型受注に成功しているのです。

これらのツールは最低限の知識と練習さえあれば、若手の営業担当者でも使うことができています。これはアハ体験を起こすために必ずしも専門家としてのインサイトが不可欠でないことを意味していると思います。

あなたの営業は顧客にアハ体験を起こせているか?

顧客が様々な情報に容易にアクセスできるようになった現在では、営業担当者が顧客に価値を感じてもらうことは容易ではありません。しかし、「顧客ロイヤルティの最大の促進要因は、企業ブランド(19%)でも商品・サービス(19%)でもコストパフォーマンス(9%)でもなく、購買体験(53%)である」(CEB、SLC)という調査結果もあるように、顧客は購買における体験を重視しています。

そのため、顧客が自分達だけでは得られなかった気付きやサプライズ、アハ体験をいかに起こせるようになるかは、これからの営業にとってさらに重要になってくることでしょう。トライツでも「購買体験におけるアハ体験」を引き続き考えていきたいと思っています。

「自社の営業は、商談の中でアハ体験を起こせているか?」ぜひ皆さんも考えてみてください。

参考:「Insight Selling Is The New Solution Selling」(Forbes, Aug 27, 2018)

インサイト営業につながる「アハ体験を引き起こす営業ツール」。トライツコンサルティングでは、営業の現場力強化の一環としてそのような営業ツールづくりとその活用推進を行っています。「顧客に価値を提供できる営業担当者を育てたい」「営業ツールを使って効果的に現場力を強化したい」という方は、お気軽にご相談ください。営業ツールのイメージなど、より具体的なヒントを差し上げられると思います。