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毎週掲載しているこのトライツブログ。情報収集のために国内や海外の事例や調査レポートなどを毎週調べていると、ときどき印象的なレポートに巡り合うことがあります。今回見つけたのは「B2B is Dead – Long Live B2P」という調査レポート。「B2Bは死んだ」という非常に衝撃的なタイトルですが、いったいどういうことなのでしょうか。B2Bの代わりに挙げられているB2Pとはどういうものなのでしょうか。

今回のトライツブログでは、B2Bの購買活動の中に見られる興味深い変化と、それに伴うB2Pという購買スタイルについて見ていきたいと思います。

海外調査レポート:B2Bの購買がよりパーソナルでエモーショナルに

冒頭で紹介した調査レポート「B2B is Dead – Long Live B2P」は、アメリカのマーケティング・営業分野のサービス会社であるDiscover Org社によるもの。お時間のある方はぜひ本文をお読みいただきたいのですが、特に印象的な箇所を抜粋してご紹介します。

記事は最初に、典型的なB2Bの購買の傾向を説明します。

(前略)B2Bの購買担当者はしばしばリスク回避型であると言われる。特に、B2Cの意思決定には1人の買い手しか関与しないのに対し、B2Bの場合は平均して5~7人の買い手が関与する。そのため、意思決定に要する時間は長く、伝統的な商慣習に則った精緻な営業活動が必要になる。

しかし、このようないわば論理的なB2Bの購買活動が、変化しつつあるというのです。記事では続けて、代表的な最近のデータが列挙されています。

B2B企業でも強固なブランド力を持つ企業は、他のB2B企業と比べて高い営業利益を上げている(Forbes)

売り手が示すビジネスの価値にほとんど違いが見受けられないため、ビジネスの価値以上に個人の価値を訴求する売り手の方を2倍以上のB2Bの購買担当者が選んでいる(Marketing Week)

B2Bの購買担当者と感情的なレベルでつながろうとしている企業は、機能上の価値やビジネスの価値を売り込もうとしている企業の2倍の成果を上げている(LinkedIn)

このようにB2Bの購買活動は以前と比べてより感情的(エモーショナル)なものになりつつある。だから伝統的でリスク回避型のBusinessに対して売ると考えるのではなく、一人ひとりのPersonに対して売る(パーソナル)という意識の転換が必要であり、そのためにB2B企業はこれまで軽視してきたブランディングに力を入れるべきだ、と記事は結んでいます。

その理由は顧客の購買活動の変化にあり?

これまでにトライツブログでも繰り返し取り上げてきたように、顧客の購買活動は近年大きく変化してきています。営業担当者を呼ぶ前に、事前にWebを使って商品サービスについての導入事例や、クチコミ情報やSNSを見るなどと、購買担当者が個人で購買活動のかなりの部分を進めるようになってきています。

もちろん、営業担当者を呼ぶ際は複数のメンバーで対応しますし、複数社からの提案を比較検討して絞り込む際は上司やさらに上の上司にまで話を通さなくてはならないので、購買活動が個人で完結するということはありません。しかし、購買プロセスのかなりのウエイトを占める「Webなどによる事前調査」が個人でおこなわれるようになってきていることと、B2Bの購買活動が論理的なものから感情的なものへと移りつつあることとの間には、明らかに相関関係があるように私は思います。

この顧客の購買活動の変化に伴う、「顧客の中の個人に対して売るB2P化」と、「B2B企業のブランディング強化」という2つの傾向はアメリカだけのものではなく、日本でも起こりつつあるように感じます。

日本でも始まりつつある購買活動のB2P化

私どももこのトライツブログをもとにメールマガジンを配信しています。HPから配信の申込を受けられるようにしているのですが、最初はGmailなどのプライベート用のアドレスで申し込まれる方が多い傾向にあります。どんな方なのかなと思いながらメールマガジンをお送りしているうちにセミナーにもお申込みいただき、会場で名刺交換をさせていただいたら誰もが知っている大手の会社の方で驚いたということが少なくありません。これなどは、情報収集/購買活動が個人から開始するようになった「B2P化」の一例だと言えるでしょう。

個人の感情に訴えかけるB2B企業のブランディング/演出

また、2つ目の傾向である「B2B企業のブランディング強化」も最近顕著になりつつあると思います。

先日、あるイベント会場で行われたマーケティング関連の大型の展示会に顔を出してきました。数百社が一堂に会しており、また各社の展示内容も凝ったものが多くて大変勉強になったのですが、なんだか物足りないような感じがしていたのです。その理由は明白で、実はそのイベント会場の隣で、あるB2B向けITサービス企業がプライベートフォーラムを開催しており、その前日にそこにも出向いていたからなのです。

プライベートフォーラムに参加されたことのある方はお分かりだと思いますが、そこはよくある展示会とは全く別の空間が広がっています。建物全体がその企業のカラーで染め上げられ、来場している人たちも少し気分が高揚している感じがします。ユーザー企業の責任者が壇上に登って誇らしげな表情で成果を語っていて、その場で成果発表することがステータスであるかのように見えます。何より一番の違いは、商品・サービスの機能をこまごまと説明するのではなく、その企業の商品・サービスを使うときのワクワクした感じや成果が出た幸せな姿をイヤミなく演出しているということです。

このようなプライベートフォーラムは、個人の感情に訴えかけるブランディングの一例です。そして、そのような体験を一度してしまうと、論理的に商品・サービスの機能や特長を紹介される従来型の展示会が物足りなくなってしまう。そのようなことが、先日の大型展示会を見に行ったときに私に起こったのだと思うのです。

まずは自分で体験することから始めよう

今回のトライツブログでは、アメリカの調査レポートをもとに「顧客の中の個人に対して売るB2P化」と、「B2B企業のブランディング強化」という2つの傾向について見てみました。それでは、この傾向を普段の営業やマーケティングに反映するにはどうすればよいのでしょうか。

その第一歩は、我々がそれを顧客の立場で体験してみることだと私は思います。色々な企業のメールマガジンやホワイトペーパーに個人のアドレスで申し込んで自社が提供している情報と見比べてみる、従来型の展示会だけでなく先進的な企業のプライベートフォーラムに丸一日行ってみる、そんな体験を自らしてみて自分がどれだけのインパクトを受けるのかを知ることで、どれだけ真剣にこのことについて考えなければならないかが見えてきます。

ひと昔前までは先進的な企業のプライベートフォーラムに行こうとすると、海外視察など大掛かりで値段の張る方法しかありませんでした。しかし、現在では国内にいながらにして十分に質の高いフォーラムに参加できるようになっています。まずは時代の傾向の変化に自ら触れてみることから始めてはいかがでしょうか。

参考:「B2B is Dead – Long Live B2P」(Discover Org, 2017 Oct. 19)

「顧客の購買活動のB2P化」の最大の特徴は、顧客が個人で(Webを中心に)情報収集する時間が増えるということです。そのような購買活動を行う顧客に対応するには、Webなどの匿名の状態で提供できる素材をいかに充実させるかがポイントとなります。トライツコンサルティングでは、ホワイトペーパーのようなWeb販促ツールの作成から、Webページ全体の企画・設計支援まで幅広く取り組んでいます。ご興味のある方は下記よりお気軽にお問い合わせください。