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「目標達成が厳しい!」
「商談も少ない!」
長年営業活動をしていると、どうしても厳しい時期というものは出てくるものです。

今回のトライツブログでは、そのようなときについやりがちな「想定商談リストの作成・運用」の落とし穴について考えてみたいと思います。

営業組織で当たり前に見られる「想定商談リストづくり」

営業メンバーに指示して新たに仕掛ける先を想定させ、そこから生まれるであろう商談と売上見込数字をリストアップさせる。そして、そのリストを使って営業活動を進め、その進捗をマネジメントする。これは、期初や期中でも予算達成が厳しいときなど、営業部門ではよく見られる光景でしょう。これをトライツでは「想定商談リストづくり」と呼んでいます。

もちろん、これが悪いということではありません。営利組織として収益を上げるためには売上予算の達成は最重要であり、そのための施策として仕掛ける先を明確にすることは大切です。また、何もやらない場合と比べれば一定の成果を上げられるでしょう。そして、最近は日本のB2B営業組織にSalesforceなどのSFA/CRMシステムが普及してきていることもあり、Excelの表に各自入力させていたころと比べると、このようなリストの管理もしやすくなっています。

それでは、この想定商談リストはどのように管理されているのでしょうか。

多くのB2B営業組織を見ていると、想定商談は既存商談と区別されずに管理されているパターンが圧倒的に多いように感じます。これはどういうことかと言うと、商談リストで管理しているのであればその中に追記され、SFAで管理しているのであればそこに新規商談として登録される。そして、いつの間にか新規商談として営業会議などで進捗が確認される、ということです。

このように想定商談を新規商談としてマネジメントするということは、決して珍しいことではありません。しかし、そこには大きな落とし穴があるのです。

事例:想定商談リストの攻略が進まない!

ある食品原料メーカーのB2B営業部門では、毎年マーケティング部および本社営業部から重点販売商品が年間売上目標とセットで通達されます。各支店では、進行中の商談や引き合いがあってこれから商談になるものを商談リスト上で管理していますが、重点販売商品の通達を受けて各支店に与えられた目標に届くようその商品を提案できそうな既存顧客を追加でリストアップします。

ところが、実際に新しい期が始まると、どうも進捗が悪い商談が多く出てくるのです。進行中や引き合いありの商談は受注もあれば失注もあり、とすべてが順風満帆ではないもののほぼ計画通りに進捗します。その一方で、重点販売商品リストは商談リストの中でほとんど動きがないままなのです。

「動きがない」と言うと営業担当者がサボっているようですが、決してそんなことはありません。
「商品を紹介して興味は持っていただいたと思うのですが、その後連絡がこない」
「別件で会うときにリマインドはしていますが、(新商品への採用検討などの)具体的な話が出てこない」
などと、自分から積極的に動いてはいるのですが、なかなか前に進まないのです。

会社の目標達成のために新たに想定商談リストを作成し、その進捗を営業会議の中で他の商談と併せてしっかりと確認していく。一見すると何も問題はなさそうなのですが、想定商談がなかなか進捗しない。
なぜこのようなことになってしまうのでしょうか。

想定商談と既存商談は「混ぜるな危険」

私は、「想定商談を既存商談の中に混ぜてマネジメントしてしまうこと」にその理由があると思います。

これまで述べてきた想定商談と、既存商談はまったくの別ものです。既存商談は少なくとも顧客が興味を抱いており、「検討してみたい」「検討してもよい」と言ってもらえているはずです。しかし、想定商談はそうではありません。この商品を紹介/提案する候補としてのターゲットであり、そこで「検討してみたい」と言われるかどうかは分かっていません。「うちにそんなの持ってこられても困るよ」と言われる可能性があるものも混ざっているのではないでしょうか。

これを簡潔に言うと、既存商談は「すでに顧客も商談だと認識していて、これから受注を目指すもの」であり、想定商談リストは「顧客は何も知らされておらず、これから商談発掘を目指すもの」ということになります。片方はすでに現実で発生しているもの、もう片方は営業担当者が頭の中で想像しているもの。つまり、まったく別のものなのです。

そのため、顧客の方で明確なニーズがないままに営業担当者が一生懸命に商品を紹介し、営業会議の中でも「他と比べて進みが遅い」と思われているため、進んでいる案件が多いときには放っておかれ、案件が全体的に停滞気味になるとハッパをかけられる。そんなもったいないことになっている想定商談リストが多いのです。

「商談発掘」と「商談受注」を分けて管理するには、境目となる「商談の定義」が不可欠

トライツのプロジェクトでは、想定商談のような「商談発掘活動」と、既存商談のような「商談受注活動」を分けてマネジメントしています。想定商談リストは商談リストとは別シートにしてどんどんアプローチしていき、顧客から「具体的に検討したい」と言われるなど好反応であれば商談リストに移し、反応が悪ければ別のターゲットを追加して可能性の低いターゲットを深追いしないようにする、というようにしています。

このように、「商談発掘活動」と「商談受注活動」とを分けてマネジメントしようとすると、この境目、つまり「何をもって『商談になった』と言うのか」を明確にすることが必要です。実は、この「商談の定義」も明確になっている営業組織は多くないように感じます。
「顧客から『検討したい』と言われた」
「商品情報(カタログ、事例、価格表など)を求められた」
など、客観的かつ一律に評価できる「商談の定義」があると、営業組織共通の物差しとして明確に境目を線引きできるようになるでしょう。

その想定商談リストは商談受注のため?それとも商談発掘のため?

このように、想定商談と既存商談という「似て非なるもの」を一緒に管理することが、意外と営業組織の中で頻繁に起きているように感じます。

今度、「目標達成が厳しいから、ターゲットリストを作ってその進捗管理をしよう」というときは、それが「商談発掘活動」なのか、それとも「商談受注活動」なのかを一度立ち止まって考えてみてください。そして、それが「商談受注活動」なのであれば、
「その進捗マネジメントの方法として何が最適なのか」
「どのような条件をクリアすれば、商談だと認定して商談リストに移すのか」
を考えてもらえたらと思います。

そうすることで、こちらの一方的な思いである想定商談リストを、まるで商談であるかのようにマネジメントしてしまうという落とし穴を避けることができるでしょう。