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「それを言っちゃあ、おしまいよ」
若い方にはわからないかもしれませんが「男はつらいよ」シリーズの寅さんの名ゼリフ。取り返しのつかないことや、すべてが台無しになるようなことを言われたときに使うことが多いようです。

今やB2B営業にとって切っても切れないシステムになりつつあるCRMにSFA。これを導入・活用しようとなると必ずと言っていいほど出てくるのが
「うちの営業はまだそのレベルに達していない」
「うちの経営者はそんなことに興味がない」
「うちには日々の営業活動をマネジメントする習慣や文化がない」
という発言。せっかくの議論も人の習慣やスキル、関心の話にされてしまうと、もう台無しです。これらの発言もまさに「それを言っちゃあ、おしまいよ」。しかし、この一方でCRMやSFAをうまく活用できている会社は、そのような環境でもいろいろと工夫をしているものです。

とりわけ、営業現場からのCRMやSFAへの反発として、一番声が大きいのがデータ入力にかかる手間でしょう。そこで、今回のトライツブログでは、CRMやSFA導入・活用の大きな壁「データ入力」について考えたいと思います。

海外調査レポート:CRM/SFAの活用における課題

マーケティング会社であるHubSpot社が毎年恒例で作成している、B2Bマーケティングおよび営業に関連する調査レポート「STATE of INBOUND」の2017年版が公表されました。B2B営業やマーケティングに関する現在の課題や今後手を打とうとしていることなどについて、いろいろな切り口で調査・分析されているので、ご興味ある方は読んでいただきたいと思います。

さて、そのレポートの中にCRM/SFAの活用についての興味深いデータがいくつかありましたので、抜粋してご紹介します。

データ①:最大の課題は「データの入力」

1つ目のデータは、CRM/SFAシステムの使用についての最大の問題は何か?というもの。

グラフを見ると、以下のようなことが読み取れると思います。
「『未導入』の回答比率が減っており、各社へのCRM/SFAの導入が進んでいる」
「『他のツールとの連携不足』や『中身の確認がしにくい』といった項目は減少している中、『不明・該当なし』が増加しており、CRM/SFAシステムの機能は全般的に改善されてきている」
「しかし、『データ入力』は依然として、CRM/SFAシステム使用時の最大の課題となっている」

データ②:微増傾向のデータ入力時間

では、このCRM/SFAへのデータ入力時間はどうなっているかというと、下のグラフのとおりほぼ変わらず、ごくわずかではありますが増加傾向にあるようです。

このグラフを見ると「毎日平均して1時間以上データ入力をしている営業担当者は32%(2017年)」ということになりそうですが、どうも実態は少し違うようです。このデータを回答者の役職で分けると、面白い姿が見えてきました。

データ③:トップには見えていない、営業現場のデータ入力時間

上のグラフを見ると、営業担当者がCRM/SFAのデータを入力する時間を、役職が高い人ほど少なく見積もっており、役職が低い、つまり現場に近い人ほど入力時間が長いと回答しているようです。役員クラスで「毎日1時間以上」だと回答しているのは21%しかいないのに、メンバー/専門職クラスではおよそ半分の45%となっています。

このデータから見えるのは、「役職の高い人ほどCRMやSFAへのデータの入力という手間を少なくとらえている」という姿です。もしかしたら、「高額で高性能のCRM/SFAを導入したのだから、データ入力の手間も改善されているに違いない」という思い込みによるものかもしれませんが、現場のデータ入力にどれだけの時間=人件費がかかっているのか、実態を分かっていないことがうかがえます。

そして、現場からの近さや遠さによってこのように差が生じているということは、多くの企業でデータ入力の実際の時間を誰も正確に知らない、もしくは社内で共有されていない、ということでもあります。一言で言うと、CRM/SFAのデータ入力時間の「真相は藪の中」ということなのです。

データの入手に莫大なコストがかかっている!

データの入力時間が分からないということは、そのデータを入手するためにどれだけのコストがかかっているかが分からないということを意味します。なぜなら、CRMやSFAに入力され蓄積されているデータは、会社全体として考えるとシステムに関する費用はもちろんのこと、人件費という莫大なコストを投入して買っているものだからです。

例えば、せっかくSFAを導入したにも関わらず、十分に活用されておらず必要なデータがすべて入力されていない場合、改めてExcelファイルを現場に送り、そこに別途入力させるというようなことが日常的に行われていたりします。この場合、最終的に得たいデータを手にするまでにどれだけのコストがかかっているかと考えると、気が遠くなりそうです。

しかし、これらのコストはシステム費用や人件費といった経営上は固定化されたものなので、誰にも「こんなにコストがかかっている!!」と問題視されてこなかったのです。

現場での小さな負担の積み重ねが、データ1件当たりのコストを押し上げている

先日、ある会社でSFAについて話をしているときに、「現場のすべての個別ニーズに合わせて帳票を作ると費用が莫大になるので、どうしてもCSV形式で吐き出したものをベースに現場で作業してもらうことになってしまう」という発言がありました。

そこで考慮されていたのは、あくまでもシステムのカスタマイズに関する費用と予算のことだけでした。このような運用にしていることで、現場にかかっている負担、投入されることになる人件費のことは考えられていない様子だったのです。

このように目の前で動くカネを削減するために、ちょっとした(実際はちょっとではないことが多いのですが…)負担を現場に強いるということはよくあります。しかし、それが積み重なると大きなコストになります。しかも、そのことを経営者はまったく認識していない。紹介した調査結果は、その様子を如実に示しているように思います。

実は、システムをより良いものにしていくために、得たいデータを得るのにかかる、人件費を含めたデータ1件当たりのトータルコストを下げる、という視点はとても大切なことなのです。なぜなら、コストが安いということは、それだけ入力がしやすく、時間をかけずに大量のデータを入力できているということにつながるからです。

データの賢い活用で、稼ぎを増やすことが可能になった!

ちなみに、以前はSFAに入力されたデータは、マネージャーがメンバーを管理するために使われるものでした。ですから、すべてが入力されていなくても、マネージャーが何らかの方法でマネジメントし、しっかり結果を出していれば大きな問題にはならなかったのです。

しかし、現在のSFAやCRMは入力データに統計処理を施すことで、今ある商談の受注の可能性がどのくらいなのかを分析したり、受注の可能性が高いターゲット企業やキーマンを絞り込んだり、商談に対して次にどのような手を打てばよいかをアドバイスしたりすることができる「予測分析」という新機能を持っています。メンバーを管理するだけでなく、データを賢く活用すれば稼ぎを増やすこともできるように進化しているのです。

そこでは、できるだけ多くの情報を入力することでより精度の高いアウトプットを得ることにつながります。簡単に表現すると、「全員がすべてのデータを正確に入力することが、より多くの稼ぎを生み出す」ということになっているのです。

「データ1件当たりコスト」の観点でCRM/SFAの活用を考えよう

なるべく安いコストで貴重な顧客データを入手し、新しいテクノロジーで稼ぎを増やすことにそれを最大限活用する。その視点から自社のCRM/SFAについて考えることが大事なのだと思うのです。

冒頭でお伝えしたように、SFAやCRMの活用が進まないことを、人の意識やスキル、習慣、文化などのせいにしてオシマイにしてしまうのではなく、「データ1件当たりのコスト」という視点でシビアに見直してみてはいかがでしょうか。

 

出展:「STATE of INBOUND 2017」(HubSpot)