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B2B営業で最近話題のキーワードと言えば「セールスイネーブルメント(Sales Enablement)」でしょう。まだ書籍こそ多くはありませんが、米国のB2B営業やマーケティングに関する調査記事の中で、最近さらによく見かけるようになったと感じます。

このトレンドは日本にも来ているようで、こちらで昨年2月に公開した「施策ありきの営業力強化はもうオシマイ!『セールスイネーブルメント』で考えよう」はトライツの過去の記事の中でも断トツの被コピペ件数(記事の一部または全部がコピー&ペーストされる件数)となっています。また、この記事をきっかけに「セールスイネーブルメントを事業化したいので相談に乗ってほしい」というお話をいただいたりもしています。

そこで、今回のトライツブログでは、現在日本でもブームになりつつあるセールスイネーブルメントについて再考したいと思います。

「トータルで設計し、数値化して計測する」ことが特徴

具体的な話に入る前に、セールスイネーブルメントという耳慣れない言葉の意味をおさらいしておきましょう。簡単に言うと、セールスイネーブルメントとは「営業活動改善のための一連の取組であり、そのための各種施策をトータルでデザインし、目標達成度合を数値化して管理すること」ということです。ここでいう各種施策とは、営業プロセスの設計、営業研修の実施、営業ツールの開発、コーチングの実施など、世に言う「営業施策」が該当します。これらの要素を「プロセス設計は現場任せ」「研修やコーチングは人事部任せ」「ツール開発はシステム部任せ」とバラバラに進めるのではなく、トータルで設計して運用する。かつ、それぞれの施策が営業の成果にどれだけ貢献しているかを数値で計り、目標にどれだけ近づいているのかを確かめながら進めていく、というのが大きな特徴です。

特にこの「数値化・計測」という特徴は、データや数字が大好きなアメリカらしいものだと思います。メジャーリーグやNBA、アメフトなどアメリカのスポーツをご覧になる方は、試合中継中に膨大な数のデータがテレビ画面に出てくるのに圧倒されたことがあると思います。この「何でも数字で計ってやろう」という言わばアメリカ的なマインドが、セールスイネーブルメントという考え方に非常に色濃く反映されているように思います。

セールスイネーブルメントが注目される2つの背景

さて、ではなぜこのセールスイネーブルメントが今さらに注目を集めているのでしょうか。
それにはさまざまな要因があるのでしょうが、Accent Technologies社というB2B営業向けシステム開発会社の調査記事「9 Reasons Why Companies Start Sales Enablement」の中にある指摘が非常に興味深いので以下抜粋してご紹介します。

「マーケティングから多くのリードを提供されているのに、営業ではそれを受注できていない」

「CRM/SFAへの投資を回収できていない」

これだけだと分かりにくいので少し補足説明します。

まず「マーケティングから多くのリードを提供されているのに、営業ではそれを受注できていない」という指摘ですが、この背景にはアメリカでのMA(マーケティング・オートメーション)の爆発的な普及があります。多くの企業でWebマーケティングやリアルのマーケティングを組み合わせ、見込客(リード)を発掘し育成するというMAが採用され、効果が出つつあります。すると、マーケティング部からはどんどんリードが提供されるのに、営業部ではそれをうまく受注につなげられない。まるで、蛇口からは大量に水が流れているのに、バケツの底に空いた穴からどんどん漏れ出してしまっている、という状態になっている企業が増えてきているのです。

次に「CRM/SFAへの投資を回収できていない」という指摘は、近年日本でも起きつつあるSalesforce等のCRM/SFAシステムの急激な普及を背景としています。Capterra社の調査によると、B2B企業のCRM/SFAシステム利用料は一人当たり月間150ドル(約16,500円)だそうです。単純計算すると、1,000人営業担当者がいる企業だとCRM/SFAシステムを利用するだけで年間2億円を使用していることになります。もちろん投資を回収できている企業もありますが、そうでない企業は投資回収のためにさらに営業効率を高めなければならなくなっているようです。

このような背景をもとに、安易に流行りの特効薬に飛びつくのではなく、営業施策をトータルで考えて営業全体の改善を進めていこう、となっているのが最近のセールスイネーブルメントのブームの実態なのだと考えます。

日本でもセールスイネーブルメントに取り組まざるをえなくなる?

ここまでお読みになられた方はもうお気付きになっているかと思いますが、先に述べた2つの背景「MA普及をきっかけとしたリード獲得件数の増大」「CRM/SFAへの高額投資を回収する必要性」は、まさに今の日本のB2B営業でも起こりつつあることです。

MAは大手企業を中心に続々と検討・導入が進みつつありますので、これが成功すると営業部門は大量のリードを受け取ることになり、受注する力が弱い場合は先ほどの例のような「穴の空いたバケツ」状態に陥ってしまいます。また、Salesforceをはじめとする大規模なCRM/SFAシステムは、すでに多くのB2B企業に導入されて運用が開始されています。これも、投資回収が思うようにいかない場合は、営業プロセス設計や研修・コーチングなどを組み合わせた営業活動のトータル的な改善が必要になってくるでしょう。

つまり、近い将来、日本のB2B営業でもこのセールスイネーブルメントに取り組まざるをえなくなる、という状況になる可能性が非常に高いと考えられるのです。それでは、その時に備えて、今からどんな手を打っていけばよいのでしょうか。

数値化・計測に向いていない日本のB2B営業

私は、日本のB2B営業がセールスイネーブルメントという考え方を取り入れる際の一番のハードルは、「数値化・計測」にあると考えます。セールスイネーブルメントを導入・運用する際には、結果目標やプロセス目標などの各種の営業目標が計れるようになっていなくてはなりません。しかし、現在の日本のB2B営業が使っている指標は、数値化・計測することに向いていないものが多いように思われます。

例えば、
・営業担当者が主観で判断する「商談化」
・営業担当者がお願いして出すものも含まれる「提案件数」
・営業プロセスを意識していない「訪問件数」
このように「商談」や「提案」など、定義があいまいなまま目標が設定され皆が活動しているものが日本のB2B営業にはたくさんあります。そして、これはセールスイネーブルメントの導入を考えているわけでない現在でも、正確に営業マネジメントをしようとする際に、往々にして問題となっています。セールスイネーブルメント導入の有無にかかわらず、営業の実態を計測・分析するには基本的な用語の定義・条件付けが不可欠です。

まずは営業の基本用語を定義することから始めよう

MAやSFA/CRMの普及に伴い、近い将来、日本のB2B営業でもセールスイネーブルメントに取り組む必要性は高まってくることでしょう。その時のために、そして今の営業活動の内容を計測するためにも、「商談」「提案」などの基本用語の定義から始めてみることが、営業活動の改善の第一歩になるのではないでしょうか。

参考:「9 Reasons Why Companies Start Sales Enablement」Accent Technologies, Mar 22, 2017

セールスイネーブルメントで成果を出すためには、普段使っている「商談」や「提案」に商談ランク「A~D」などの営業の基本用語や考え方の定義が必要です。トライツコンサルティングでは、セールスイネーブルメントを導入する企業や、SFAに取り組む企業と一緒にこれらの用語を定義・再構成する活動をしています。「データを使って営業の現場力を高めたい」という方は、下記よりお気軽にご相談ください。