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つい先日、話題になったアメリカの次期大統領選挙が終わりました。ずっと「米国初の女性首相誕生は間違いなし」と言われ続けていましたが、それはまた次の機会ということになりそうです。

アメリカでは女性大統領の誕生はなりませんでしたが、古くはイギリスのサッチャー首相やフィリピンのアキノ大統領に始まり、現職ではドイツのメルケル首相など世界各国では女性首脳が多く誕生しています。また、世界では国会議員への女性進出も進んでおり、スウェーデンやノルウェーにベルギーなど国会議員の議席数に対する女性議員の割合が40%を超える国がある一方で、日本は186か国中147位の12%とまだまだのようです。

この女性比率、日本の実業界でもまだ低いままです。例えば、東京商工リサーチによると社長の女性比率は年々上昇しているもののまだ12%。ただ、その多くが中小・零細企業のため、上場企業に絞ると1%しかないそうです。このように見てみると、日本における女性の社会進出はまだまだ緒についたばかりだと言えそうです。

今回のトライツブログでは、ビジネス分野の中でも特にB2B営業の分野における女性進出をはじめとしたダイバーシティについて考えてみたいと思います。

日本企業のダイバーシティに欠けている視点

女性の社会進出が進んでいる中で、日本のB2B営業は依然として男社会です。女性の営業担当者はごく少数で、いても支店に一人だけ、しかも外に出ることはほとんどなく営業事務として資料作成などの業務支援をしている、という企業をよく目にします。

この女性の社会進出、最近では性別に限らず国籍や年代、価値観などが異なる多様な人材を組織で活用するという「ダイバーシティ(多様性)」という言葉で表現されることが多いようです。このダイバーシティですが、一般に以下の3つの理由で必要だと考えられています。

  1. 誰もが平等に働ける権利としてのダイバーシティ
    性別や国籍、宗教などによらず、誰にでも働く機会は均等に与えられるべき、という権利としての位置づけです。企業のCSR報告書の中でも、よく「ダイバーシティの推進」という言葉を目にされるのではないでしょうか。
  2. 労働力を補う手段としてのダイバーシティ
    これまでは労働力の大部分を60歳前の日本人の成人男子でまかなうことができましたが、労働人口が減少している現在では、女性や高齢者、外国人労働者にも労働力として活躍してもらうことが不可欠になっています。
  3. 組織のパフォーマンス向上のためのダイバーシティ
    多様な価値観やスキルを持った人材が集まる組織こそが強い企業である、という考え方です。

このように見てみると、日本のダイバーシティは1番や2番がほとんどで、3番のパフォーマンス向上、平たく言うと「稼ぎを増やす」という視点が欠けているように感じます。確かに「多様な人材の活躍で組織の活性化」という話はビジネス書や雑誌ではよく目にはするのですが、実際にそれができている企業のことをあまり見かけないようです。

ダイバーシティの推進で営業の業績は上がる!

それでは、ダイバーシティの推進によって組織のパフォーマンスは本当に向上するのでしょうか。これについて、大手コンサルティング会社のマッキンゼーが興味深い調査結果を発表しています。

性別のダイバーシティへの取組で上位4分の1の企業は、下位4分の1の企業よりも15%優れた収益をあげている。
男性と女性の営業担当者の予算達成率を比べると、女性の方が男性よりも3%高い。

この結果の要因は純粋にダイバーシティだけではないかもしれません。ダイバーシティに積極的に取り組んでいる企業は、それ以外の施策についても積極的に導入している可能性がありますし、男性と女性との予算目標の持たせ方も異なっているかもしれません。しかし、ダイバーシティへの取組度合によって、ここまで明白な差が生じていることは注目に値するのではないでしょうか。

ダイバーシティ推進のヒントは「顧客のダイバーシティとのギャップ」にあり!

では、マッキンゼーの調査通りに、単純に営業組織に女性を増やせばパフォーマンスは向上するのでしょうか?

調査ではダイバーシティを推進している企業の方が高い業績をあげている、そのより深い理由は明らかになっていません。これに対して、実際にトライツとして営業活動を支援している経験から、そのヒントとして「顧客のダイバーシティとのギャップ」というものがあるのではないかと感じています。つまり、顧客の中で進むダイバーシティに、自社の営業組織を合わせることで、より顧客に適した提案や商品開発ができるようになるということです。

例えば、海外市場に進出するから海外の商習慣に詳しく、言葉の不安もない現地出身の人を採用する、ということはよくあります。同じように、女性の割合が高まっている顧客に合わせて自社の営業メンバーの中に女性を入れることで、より顧客に合った営業ができるようになり、結果として稼ぎが増えるようになるのだと思われるのです。

例えば、大手企業向けに新入社員研修をメインに提供している教育研修会社があります。最近では大学や高校・専門学校を卒業する多くの人が企業で働きますので、日本全体で見ると新入社員の約半分が女性です。しかし、この教育研修会社の営業部門で顧客対応していたのは男性社員ばかりで、女性社員は後方で営業事務や教材作成として働いていました。この企業では、女性社員にも商談や企画会議に入ってもらい、新人女性向けの研修メニューを開発できるようになりました。

もう一つの例は、食品素材メーカーです。顧客である食品メーカーの研究室には女性研究員が多く働いており、企業によっては男性研究員よりも女性研究員の方が多いことさえあります。しかし、この素材メーカーの営業担当者は男性ばかりでした。そこで、ある大手重要顧客の中で女性向け新商品開発プロジェクトが立ち上がったときに、この素材メーカーは自社の開発部門にいた女性開発担当者に毎回必ず商談同行してもらい、また社内の作戦会議でも積極的に意見を出してもらうことにしました。その結果、当初とはまったく異なった商品企画になり、現在両社合同でのプロジェクトを推進するようになりました。

ダイバーシティが教えてくれる、顧客の変化に気づき対応することの大切さ

この2つの例に共通して言えることが3点あります。
第1に、女性の社会進出が進んでいるために、顧客社内のダイバーシティが進んできていること。
第2に、それに対して自社のダイバーシティが追いついていないということ。
そして最後に、顧客に合わせて自社のダイバーシティを進めることで、新しい売上の機会を手にしたことです。

これは、Webを積極的に活用して自ら情報収集するようになった顧客に対し、多くのB2B企業の営業組織はWeb活用の点で顧客の後塵を拝してしまっている、というB2B営業のよくある図式に近いものがあります。ダイバーシティでもWeb活用でも大事なのは、顧客の変化に気づいて自社がそれに合わせて変化することなのです。

顧客とダイバーシティをシンクロさせて稼ぎを増やそう!

広く一般的に知られているダイバーシティの考え方は、その言葉の通りに「多様性」であり、性別や年齢、国籍や宗教などさまざまな要素を増やしていく、というものです。

しかし、営業組織におけるダイバーシティには別の考え方というのも有効だと思われます。それが上で紹介した「顧客のダイバーシティに合わせる」というもの。それは例えば、顧客の中で進む女性の活用に合わせて営業メンバーに女性を入れて企画・提案するということです。

掛け声だけでなかなか前に進まず、日本のB2B営業では遅れているダイバーシティ。ただ多様性を追求するのではなく、顧客のダイバーシティを知り、それに合わせた組織を作ること。それこそが組織のパフォーマンス向上を実現できるダイバーシティなのではないでしょうか。