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産業能率大学の調査によると、営業担当者のうち「顧客の新規開拓」にストレスを感じている割合は65%だそうです。新規開拓が悩みの種だ、という営業組織も多いのではないでしょうか。

しかし、同じ新規開拓でも既存顧客から紹介された顧客との商談は一味違います。こちらから売り込まなくても、自社の良さを分かってくれていて、信頼してもらえている雰囲気があり、ストレスをあまり感じずに営業活動できます。

とはいえ、周りに「誰でもいいから紹介してほしい」とお願いしてもなかなか紹介は増えません。紹介を受けるのは楽なのですが、紹介を増やすのは難しいものです。

今回のトライツブログでは、顧客の紹介についての調査結果を見た上で、紹介を増やすために営業として何をすべきかを考えてみましょう。

調査レポート:紹介された顧客が理想の顧客

アメリカの口コミマーケティング会社であるExtole社が最近発表したレポート『2016 Referral Marketing Best Practices』によると、既存顧客から紹介された新規顧客(以下、「紹介顧客」)は企業にとって理想的な顧客であることが分かったそうです。

紹介顧客はそうではない顧客と比べて解約率が18%も低く、1つの契約から得られる利益も25%高いとのこと。また、紹介顧客はさらに自分たちの周りに自社のことを紹介したいと思う割合(ネットプロモータースコア)も高く、まさに紹介が紹介を生む構造になっているというのです。

紹介の「お願い」は意味がない!紹介する側に「意思」はあるか?

このような結果だけを見ると、「新しい顧客を紹介してもらえるように既存顧客にお願いしなきゃ」と思ってしまうかもしれません。しかし、そのようなお願い営業を仕掛けてもうまくいかないことが多いでしょう。それは、紹介する側に紹介する意思が欠けているからです。

例えば、そこまで深く付き合っているわけでもない知り合いから「誰か紹介してほしい」とお願いされても、気が乗らないまま紹介してしまったり、紹介する相手に「一応紹介するけど、断っても大丈夫だから」と予防線を張ったりしがちです。このような場合では、紹介の話に乗り気なのは営業担当者だけ。実際に会うことができたとしても、おそらく「また何かあれば」と適当にお茶を濁されてオシマイになるのではないでしょうか。

紹介が成立するためには、現実に「何かに困っている人(=紹介する相手)」がいて、「その人のことを助けてあげたい人(=紹介する側)」がいることが大前提です。そして、紹介する側が「この間会ったあの人は、今困っている彼/彼女にきっとピッタリだから会わせよう」という意思を持っていることが不可欠です。

事例:顧客内で紹介される営業担当者の共通点は?

このように、無理やり紹介をお願いすることには意味がありません。しかし、お願いもせずにただ待っているだけで紹介話が舞い込んでくるかというと、そうではありません。では、紹介される側の営業は何をすればよいのでしょうか。

ある化学素材メーカーA社を例に考えて見ましょう。A社の営業は完成品メーカーである顧客のさまざまな部署に顔を出す必要があります。最終商品をどのようにしたいかを考える商品企画部門に、A社以外の各社から集めた素材をどのように調合すればよいかを考える技術部門。そして素材一つひとつに対して深く調べる研究部門に、価格についてのやり取りをする購買部門。A社の営業担当者は、顧客の部署から部署へとうまく渡り歩きながら商談を進めることが求められています。

このA社の中でも、顧客に特にうまく紹介されて各部署のキーマンと面識を持てている営業担当者がいます。その人たちの様子を見ていると、1つの共通するポイントが見つかりました。それは、「分かりやすいキャッチコピー」が付いている、というものです。

ある営業担当者は有機化学の分野で博士号を持っており、興味のある学会には欠かさずに出席したり、顧客から専門的な問合せが来た時には自分の大学院のツテを使ってそれに答えたりしています。彼は社内の同僚だけでなく顧客からも「ドクターを持った研究肌の営業担当者」と呼ばれ、顧客の技術部門や研究部門の人から重宝されて顧客社内でどんどん人脈が広がっていっています。

他にも、前職で広告代理店に勤めていたため「プロモーションが分かる素材営業」と言われている営業や、工場の生産部門の叩き上げで、顧客の製造ラインでトラブルが起きたときには工場にすっ飛んでいって問題解決までやってしまう「製造ラインのプロ」と呼ばれている営業など、顧客内で人脈を広げることに長けているA社の営業担当者には漏れなくキャッチコピーが付いていたのです。

結論:紹介成功のために本当に大事なことは?

このように考えると、紹介を成功させるために営業として大事なことは、自分の強み/得意なことが一言で伝わる、分かりやすいキャッチコピーを持つことと、そしてそれを裏切らないように良い仕事を普段からしておくことであると言えると思います。

そして、やみくもに顧客や知り合いに新しい顧客の候補を紹介してほしいとお願いするのではなく、彼らがそのキャッチコピーをもとに「この話なら、○○さんにつないでみよう」と自らの意思で紹介してくれる状態をつくることが大事なのです。

キャッチコピーが付く営業になろう!

実際に自分たちの営業組織を見回してみてください。同僚や部下の皆さんは、顧客にパッと一言で価値が伝わり、かつ印象に残るようなキャッチコピーをお持ちでしょうか。言い換えれば、営業マネージャーである皆さんは、部下である営業担当者一人ひとりを顧客に売り込むフレーズを持っているか、ということです。

ここでいうキャッチコピーは刑事ドラマ「太陽にほえろ!」で刑事に付いていたニックネームとは違うものです。「この人はこれが得意だから」「あの人にはこういう持ち味があるから」と、顧客の中で紹介を生むようなものでなければなりません。

そして、もしそのようなキャッチコピーを持っていない営業担当者がいるなら、営業マネージャーとしてその人のことをどうプロデュースするかを考えてみてはいかがでしょう。
「彼/彼女のどんな一面が人とは違うのだろう」
「彼/彼女の仕事ぶりを語る、面白いエピソードにはどんなものがあるか」
このように考えることで、顧客の印象に残るキャッチコピーをつくることができるはずです。

また、営業担当者個人としては「キャッチコピーが付けられる人間になる」という意識を持つことも必要です。それは例えば、普段の仕事の仕方でのこだわりや一本筋が通っている様子であったり、はたまた空き時間を使って一つのことを深く勉強してみたりといった、周りの人が自分のことを売りやすくするための工夫。紹介される営業になるためには、キャッチコピーもそうですが、売り物である自分自身の価値を高めることもまた欠かせないのです。

参考: Report: Referred customers less likely to churn, more profitable|FierceCMO

「キャッチコピーづくり」は営業担当者個人だけでなく営業組織においても、新しい人に紹介されるために重要なポイントです。トライツコンサルティングでは、新規開拓などのプロジェクトでその営業組織の「キャッチコピーづくり」をご支援しています。「新規の顧客にも価値が伝わりやすいキャッチコピーが欲しい」という方は、お気軽にお問合せください。