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新規事業の成功の秘訣と聞いて、どんなことを想像されるでしょうか。「魅力的な新商品」「優良な新規顧客」「優秀なチームメンバー」「皆が奮い立つビジョン」など、色々な要素が欠かせません。しかし、これに勝るとも劣らない大事な要素があります。それは新規事業に取り組むマインドセットです。

今回のトライツブログでは、特に大企業が新規事業に取り組む際に必要とされるマインドセットについて考えてみたいと思います。

「良かれと思って」が新規事業をスローダウンさせている

大手企業で新規事業に携わるマネージャーの方から「事業拡大のために新規事業を立ち上げたものの…」というお話を聞くことがあります。続きを聞いてみると、どうもメンバーの仕事の仕方やマネジメントのあり方で悩まれている様子。

既存事業から異動してきたメンバーからは
「どこまで自分でやるべきなのか、その線引きがわからない」
「もっとサポート体制を充実させてもらわないと、営業ができない」
などと言われ、トップや事業管理部門は
「全社での計画があるので、来年度の見通しを報告するように」
「応援したいので、やっていることを教えてくれ」
と言ってくる。

ここでのポイントは、誰も足を引っ張ろうとしているのでなく、皆さん既存事業と比較するとあまりにヨチヨチ歩きの新規事業に対して「もっと○○した方がいいのでは?」「△△ができてないよ、大丈夫?」と、「良かれと思って」問題提起やアドバイスをしているということです。
しかし、新規事業の当事者にしてみれば、そんなことは百も承知。「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと自分で手を動かしてくれ」「お願いだから邪魔しないで、暖かく見守っていてくれ」と言いたいはずですが、なかなかそういうわけにいかず、困っているということなのです。

新規事業は未開の地を行く探検隊

新規事業を立ち上げるということは、まさに未開のジャングルに踏み込んでいくようなもの。すでに色々なツールやルールが揃っている既存事業と比べると、圧倒的に何もかもが足りません。仕事のやり方や業務ルール、ホウレンソウ(報・連・相)のしくみなど、自分たちの業務に合わせて自らで調達・作成しなければなりません。

また、マネジメントでも足りないものばかりです。既存事業のように既存客がいて、受注残や継続中の商談があって、ある程度の精度で売上計画を作成できる、というようなことはまずありません。実際に見込み客に会って売ってみるまでは、市場規模も商談期間も商談単価も大まかにしかわからない。たまたま少し売れても、それが他の顧客にどの程度需要があるのかもなかなか読めない。そのような中で、既存事業と同じように事業計画を出すように言われ、その根拠に不鮮明なところがあると詳細の説明を求められる。

これらの「足りないもの」への対応に追われるうちに、本来最優先でやるべき「新規顧客の開拓」や「商品・サービスの改善」に割く時間がどんどん削られていく。実はこのような話は、既存事業がしっかりとしている大手企業が新規事業に取り組む場合に、本当によく耳にします。

これはまるで、未開のジャングルを行く探検隊に対して、「取りに行く宝物がいくらになるか見積とその根拠を聞かせろ」「一日の終わりにはその日の移動報告と翌日のスケジュール表を詳細に報告すること」と言っているようなもの。一日の大半を、そのジャングルでの過去の発見情報を探したり、ベースキャンプの中にこもって本部向けの報告をしたりすることに費やしてしまうことでしょう。

新規事業に必要なマインドセット:『ない』ことを受け入れよう

新しく来たメンバーや本社管理部門がこのように振る舞ってしまう理由の1つは、既存事業の延長線上で新規事業を見てしまうからだと思われます。既存事業ならあってしかるべきものがない。既存事業ならもっと詳細にマネジメントできるはずなのにそうなっていない。それに対して、つい良かれと思ってアドバイスしてしまうのです。

しかし本当は、新規事業に取り組むメンバーやそれを支援する本社部門には、新規事業向けのマインドセットが必要です。
それは、「『ない』ことを受け入れる」ということです。

メンバーは仕事のやり方やルールがないことを問題提起だけするのではなく、それらが『ない』ことを受け入れて、自分たちでそれを考えてカタチにしてみる。そして、本社管理部門は詳細の計画や予定を知ろうとすることに力を入れるのではなく、それは知りえ『ない』ものだと割り切って、新規事業チームが本来の仕事に注力できるように、大筋を外れていないか大問題が起きていないかといった大略だけを見張っておく。このようにマインドセットを変えることで、チームが新規事業に100パーセントの力で取り組めるようになるのです。

大企業のメリットを活かして、新規事業にチャレンジしよう

新規事業へのチャレンジは不安定なものです。中小企業や個人事業主の場合はまさに乾坤一擲、社運や人生を賭けた大きなチャレンジとなります。これに対して大企業の場合は、安定した既存事業に支えられているため1つ2つの新規事業が失敗に終わったからといって、そのまま会社が傾くようなことはほぼありません。そのように考えると、大企業やそのグループ会社にいながら新規事業にチャレンジできるというのは恵まれた環境だと言えるでしょう。

ただ、大企業には既存事業で慣れ親しんだマインドセットがあり、それになじんだメンバーや本社部門が新規事業に関わるようになります。その際に、「『ない』ことを受け入れる」というあたかも探検隊のような、マインドセットを身に着けられるかどうかが大きなポイントになるのです。

トライツコンサルティングでは、特に大企業による新規事業への取組を多くご支援しております。「新規事業を成功させるための秘訣を知りたい」という方へは事例などをご紹介しますので、下記よりお気軽にご相談ください。