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若手営業担当者向けに自社流の営業のやり方、模範例を示すツールの1つに「営業マニュアル」があります。しかし、営業マニュアルは決して若手だけのためのものではありません。実はマニュアルづくりという取り組みそのものがベテランの営業マネージャーの育成にも有効な手段となりうるのです。
今回のトライツブログでは、営業マニュアルを営業マネージャーの育成につなげる方法をご紹介します。

営業マニュアルは自社の営業のお手本を示す大事なツール

最近、とある会社(A社)から営業マニュアルについての相談を受けました。ここ数年のA社は事業の再編で慌しく、新しく入った営業担当者に対してほとんど教育をできなかったそうです。そのため、若手営業担当者はそれぞれに見よう見まねで営業活動をしているものの、若手全体の営業力の低下が事業部にとっての最重要課題になっているとのこと。その施策として、社内に散らばっているベテラン営業のノウハウを集めて、若手向けの営業マニュアルを作ろう、という動きが出てきています。

このようなケースは極端かも知れませんが、若手営業担当者向けに自社の営業のお手本を示す施策の1つとして、営業マニュアルの重要性を再認識している会社が増えてきているように思います。
新人営業担当者にしてみても、
「自社の営業は何を大事にしているのか」
「どのような手順で営業活動を進めていけばよいのか」
「そこにどのようなポイントやノウハウがあるのか」
といったことを学ぶには外部の営業研修に出ることよりも、わかりやすい自社の営業マニュアルの方が効率的ですし、実践でも役立つのです。

営業マニュアルづくりの障害「当たり前が違う」

「なんでその人と商談してるんだ?そこの会社のキーマンは部長だろ?!」
「ヒアリングしたのになんでこんな大事な情報を聞けてないんだ!」
営業会議などでよく目にする光景です。そこで、その後に改めて営業担当者とマネージャに「キーマンとは?」「ヒアリングで聞くべき項目は?」と聞いてみると、そもそもの定義がされていなかったり、認識にズレがあったりして、営業担当者の「当たり前」とマネージャの「当たり前」が違うことがわかるというのはよくあることです。

実はこのような当たり前の違い、具体的には用語の不一致や曖昧な定義、人による認識の相違が原因となって、普段の営業活動や社内のコミュニケーションにおいて、微妙な認識の齟齬やコミュニケーションロスが起きていることは少なくありません。とはいえ、こんな状況でも営業活動はできますし、とりあえず仕事は回っていくので誰も問題視せず、放置されています。

ただ、営業マニュアルを作ろうとすると、明確に文章にしたり、図で表したりしなければならないので、いろいろあいまいな部分が露呈してしまうのです。
例えば、当たり前に使っている「ソリューション」や「キーマン」といったキーワードをいざ説明しようとしても明確に文章で定義されたものが見つからず、メンバーに聞いてみても人によって認識が少しずつずれていることが分かったりします。また、ヒアリングや提案という1つ1つの営業行為において「どこまでできている必要があるか」という目標レベルも人によってマチマチであることが分かったりもします。そこで、今まで「当たり前」に使っていた言葉や概念を改めて文章化して定義・具体化しなおしていく作業が始まるのです。

「当たり前」についての議論が営業マネージャーを育てる

しかし、見方を変えると、このような作業は自社の営業について考える絶好のチャンスであるとも言えます。曖昧になっている定義や認識の相違について改めて議論しなおす場は、普段あまり考えることがない自社の営業のやり方について深く考える良いキッカケになるのです。

このキッカケを営業マネージャの育成に活用している企業があります。
営業マニュアルやそこに記載されている言葉の定義を現場で実際に普及・浸透させるには、営業マネージャーを巻き込むことが不可欠です。彼らが理解し、納得し、自分たちの言葉として若手メンバーに伝えられるようにならないと、いつまでも現場は変わりません。

そこでこの企業では、営業マネージャーに集まってもらい、普段は当たり前に使っている言葉の意味を改めて考え、自分の言葉で表現しなおしてもらうことをやっています。また、この際に彼らが現場で身に付けたノウハウも併せて形式知化しているので一石二鳥。現場の生のノウハウが詰まった「使える営業マニュアル」になり、営業マネージャーのマニュアルへの思い入れも強くなることで、現場で使うモチベーションを高めているのです。

営業マニュアル作成に必要な環境を整えることがトップの仕事

この企業の状況を見ると、本社や企画のスタッフとデザイン会社だけで営業マニュアルをつくるのがいかにもったいないことかが分かります。トップは営業マニュアル作成の目的の1つに営業マネージャーの育成があることを認識した上で、営業マニュアルづくりに必要な環境づくりをするべきなのです。

具体的には、営業マネージャーにも必要な場面では議論に入ってもらうように明確に伝えること。また、その議論の場におけるファシリテーターを確保し、短時間でも深い議論ができる環境をつくること。そして、ドキュメント作成を支援してくれる体制を整え、資料化の工数を削減できる環境をつくること。
この3点が営業マニュアルづくりにおけるトップの重要な仕事です。マネージャの育成と新人の育成の両方に効果が期待できるオトクな施策だと思いますが、いかがでしょうか。