営業にとって提案書は切っても切り離せないもの。提案書の出来の良し悪しが営業活動の成否を分ける、と言っても過言ではありません。そのため、多くの企業で提案書作成力を高めるための取組が行なわれています。

とある企業では、大事な商談の前に営業マネージャと担当営業が集まって提案書の中身をチェックする「提案書レビュー」という取組を続けています。今回のトライツニュースでは、この「提案書レビュー」の一幕を見ながら、どのような観点で提案書を見直せばよいのか、提案書をチェックするポイントを紹介します。

全て揃っているのに何か足りない提案書

とある部品メーカーの営業支店の中にある会議室では、提案書レビューの真っ最中。中堅営業マンが大手メーカー向けの提案書をメンバーに説明しています。この提案書は営業マンが日曜日に出社して作った力作で、30ページを超えるもの。この営業マンは新卒からこの事業部で働いているので事業内容を熟知しており、最新の市場トレンドや技術情報など必要とされているページは全て集められています。一見すると良さそうな提案書なのですが、敏腕の営業マネジャーはどうも納得がいっていない様子。提案書の素材は集まっているのですが、何かが物足りない。

営業マネジャーは目を閉じて腕を組み、会議室の天井をしばらく眺めてからその姿勢のまま独り言をつぶやき始めました。
「結局、何でウチがこのタイミングでこの商品を開発しなきゃいけないんだ?」
「この手の商品に組み込める部品なんて山ほどあるのに、何でこの部品を使わなきゃいけないんだ?」
「この部品を取り扱っている会社も日本だけで5社くらいあるのに、何でこの会社から買わなきゃいけないんだ?」
「どれくらいのビジネス規模になって、採算は取れるのか?」

顧客の決裁者の視点で提案書を見る

そうです。営業マネジャーは顧客の決裁者の視点から提案書を見始めたのです。
実はこのとき、顧客の担当者は新商品を開発したいと思っていたのですが、まだ部内で少し議論をし始めたばかりでまだ決裁者には話ができていませんでした。したがって担当者はそもそも新商品を開発するということについて、決裁者から承認を得なければならなかったのです。それなのに、営業マンが一生懸命作った提案書は、自社の部品を一方的に売り込むだけのものでした。顧客の決裁者が意思決定するためには、どの企業のどの部品を買うかという前に、そもそもどんな新商品をなぜ開発するのかという質問に対する自社としての明確な答えが書かれた提案書が必要だったのです。

この中堅営業マンの意識の中では、自分がやるべき提案は自社の部品を新商品に採用してもらうことで、その新商品開発の決裁を得るのは「顧客の仕事」でした。しかし、それを顧客任せにしてしまうと、いつになったら新商品が開発されるのか、その商品に本当に自社部品が採用されるのかを分からないまま、顧客の意思決定を待ち続けなければなりません。かねがね営業マネジャーはそのような営業スタイルから脱却したいと思っていましたので、この提案書レビューの中で一歩踏み込んで、顧客の新商品開発を後押しする提案書を作ろうと決めたのです。

営業マネジャーは決裁者になったつもりで提案書をめくり直しながら、気になることをメンバーに話し始めました。
「この市場が伸びることは分かるが、なぜ他にもある成長市場ではなくこの市場に新商品を投入しなければならないんだ?」
「提案している部品についての技術データはたくさんあるが、他の部品ではなくこの部品に決める理由はどれなんだろう?」
「エンドユーザーが既存競合商品ではなく、この新商品を買うと言える理由はなんだろう?」

結果、この提案書は顧客決裁者の視点から大幅に書き直すことになりました。

提案書のチェックポイントを見極めるためのたった一つの質問

このように顧客の決裁者の視点から考えたことにより、提案書をチェックするポイントが分かり、提案書に必要な要素が明らかになりました。提案書をチェックするポイントは顧客の決裁者によって異なるので、残念ながら「提案書をチェックする5つのポイント」と言った万能薬はありません。しかし、それを作るための質問はたった一つです。
「顧客の決裁者は、何についての決裁を、どんな基準でするのか」
この質問に答えることで、提案書に必要な要素が何かを考えることができるのです。

このような観点からチェックされた提案書であれば、担当者がそのまま上司やその先の決裁者に説明できるでしょうし、顧客の関係者が始めて読んでも「何を言っているのかよく分からない」ということにはならないでしょう。よく、良い提案書を表現するのに「そのまま使える」とか「一人歩きできる」という言葉がありますが、そのような提案書を作るためのポイントが顧客の担当者ではなく、「顧客の決裁者の質問に答える」ことなのです。

意思決定支援は営業の仕事!顧客任せにしない

ここまで踏み込んだ提案書を作ることに対して、営業マンはついつい「それは顧客の仕事だよ」と言って顧客任せにしてしまいがちです。確かに考えるべき範囲は広くなりますし、手間も掛かります。しかし、ここまで踏み込むからこそ、なぜ顧客が自社の商品を採用すればよいかについての深みのある提案を作れるようになり、顧客が社内で新商品開発について躊躇しているときにタイムリーに後押しできるようになるのです。

営業の仕事は顧客の決裁を支援すること。皆さんも、次に自分で提案書を作るときやメンバーの提案書をチェックするときは、顧客任せにするのではなく、「顧客の決裁者は、何についての決裁を、どんな基準でするのか」を考えながら提案書をチェックしてみてください。その提案書が顧客の中で「そのまま使えて」「一人歩きできる」ように進化するためのヒントが、きっと見つかるはずです。